医師・専門家による連載コラム からだのとりせつ。 気になる不調や悩みのリセット法、からだのプロが教えます!

悩みの種だらけ?

「ブルース」というジャンルの音楽がある。
黒人が奴隷として働いていた頃、憂さ晴らしに歌った音楽が発祥とされている。
現代のロックやポップスのルーツでもある。
「ブルース」はときどき、「演歌」と訳されることがある。
実際、演歌で「柳ヶ瀬ブルース」や「中の島ブルース」などとタイトルに「ブルース」がつく曲がある。
演歌と黒人ブルースには、違いがある(異論はあるかもしれないが)。
日本のブルースは「別れても好きな人」。
黒人ブルースは「別れたら次の人」だ。
黒人ブルースは、音楽性にも歌詞にも「強さ」が存在する。
挫けない強さが。

木村さん(65歳)は、夫婦関係がうまくいっていない。
しばしばその相談を受けていた。
「熟年離婚もありですよ。ウチの両親もそうだし」
修復に向けての工夫は頭打ちだった。
そんなさなか、木村さんは「腰痛」を発症した。
これまでに経験したことのないような腰痛だった。
投薬、運動の助言などが奏功し、腰痛は消えた。
「痛みが治まったら夫への不満が強くなった」
木村さんは残念そうに口にした。
痛い間、夫への不満が消えていたそうだ。
痛みが「悩み」を忘れさせてくれていたのだ。
「痛み」というのも「エスケープ反応」の一種なのかもしれない…

夫婦不仲も痛みも、いわば「悩みの種」だ。
「悩みの種」はよくできた日本語だ。
「悩み」と「種」を分別しているところが素晴らしい。
「悩みの種」は皆が持っている。そしていくらでも持つことはできる。
大切なのは「悩みの種」に水や肥料を与えないことだ。
「私は悩みません。悩みの種はありますが」
ということもできるのだ。

目の前でニコニコしている人がいる。
絶対この人にも「悩みの種」はあるはずだ。
ニコニコしてくれてるんだ。みんなのために!
仏教用語に「和顔施(わがんせ)」という言葉がある。お布施の一種だ。
喜捨(きしゃ)するものが何もない?
じゃあ和やかな笑顔を差しだそう。

そういう意味らしい。

「ブルース」は「悩みの種」と訳すのが一番いいのでは?
「別れ」も次の出会いへのチャンスと考える黒人ブルース。
逆境を笑い飛ばす強さを持ちたい!

人間関係をたくさん築いている人。用事の多い人。
そういう人は当然「悩みの種」は多くなる。
しかし、ひとつひとつの「悩みの種」を「悩み」に成長させている暇がない。
「仕事をしている間は痛みを忘れる」
という患者さんは非常に多い。

逆に、ヒマな高齢者が最も痛みを訴える。
簡単に「悩み」に成長させてしまうのだ。

残念なのは、仕事を「悩み」に成長させている患者さんだ。
それが「病」という新たな「悩み」にもつながる。

「辞めたら?仕事を」
そんな助言しかできなくなる。
それが一番の悩みの種だ…

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執筆

1971年、大阪生まれ。医師、医学博士、内科認定医、認定産業医、スポーツ健康医、在宅医療認定医。大阪医科大学卒業後、大阪府済生会中津病院血液リウマチ内科、国立感染症研究所を経て2008年より蔵前協立診療所所長として、地域医療に従事。年間のべ約2万人を診療している。2018年、医療と教育に特化したONE LOVEビルを建設。医療従事者向けに「日本メディカルコーチング研究所」、一般の患者向けに「よろず相談所 One Love」を開設。武道家・格闘家との交流、映画出演、音楽ライブ活動など幅広く活躍。著書に『病は口ぐせで治る!』(フォレスト出版)がある。

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