かつて、大学で考古学と民俗学を専攻していた私は、フィールドワークや論文作成に伴い、様々なお酒に触れてきました。
勉強するのにお酒を飲まなきゃいけないの? と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、事実です。お酒を一緒に呑んでいないと言葉を話してはいけない、という習俗まで存在します。
さて、ある日のこと。イスラエルへフィールドワークに赴いた教授が、空港で爆弾騒ぎに巻き込まれ、日本にとんぼ返りするという珍事が起きました。しかし、何もせずに帰ってきてはメンツが立たぬ、と、教授は当時学生であった我々に、現地のお酒を買ってきてくれたのでした。
ラベルには見たこともない文字が躍っていて(イスラエルの公用語はヘブライ語です)、私達は面白半分にそれを飲んだのを覚えています。……そして、その直後、全員が後悔しました。
まず、防虫剤の香りと味がして、次にとんでもないアルコール度数の為に、口の中に熱風が吹き荒れました。
床を転げまわった私達は、やり場のない怒りから、嫌いな先輩を呼び出してこれを飲ませました(無論、反撃されましたが)。
そして最終的に私達は、この名もなきお酒(誰もヘブライ語が読めませんでした……)に、『イスラエルの風』という名前を付けて、研究室にあった冷蔵庫の一番奥に封印しました。
で、時が経って、昨日。
大学職員として働いている後輩から、電話が来ました。
「大学で大掃除してたら、冷蔵庫の中から変なお酒見つけたんですよ。今度呑みません?」
呑みません!
絶対に。