【腰痛の「原因不明」は、筋膜に潜む――】
画像所見や整形外科的検査で「異常なし」とされながらも、**慢性腰痛(chronic low back pain)**を訴える患者は多い。
その裏に潜んでいるのが、**筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome:MPS)**の存在です。
本画像は、脊柱起立筋群(erector spinae)――特に最長筋(longissimus thoracis)および腸肋筋(iliocostalis lumborum)に形成されたトリガーポイント(Trigger Point:TrP)が、どのような関連痛(referred pain)パターンを引き起こすかを示しています。
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【トリガーポイント:局所虚血+感作+中枢化】
TrPは、筋線維内の虚血性代謝異常領域において、持続的収縮と血流障害が重なった状態。
その結果、乳酸・ブラジキニン・サブスタンスPといった発痛物質が蓄積し、**ポリモーダル受容器(polymodal nociceptors)**が感作されます。
この末梢性感作が**後角ニューロンに投射されることで、痛みは中枢化(central sensitization)**し、離れた部位への関連痛を引き起こします。
画像に示されているように、
• 腸肋筋TrP:外腹斜筋領域や腹部正中線、腰外側に拡がる
• 最長筋TrP:仙腸関節・臀部・腸骨稜部に飛ぶような痛みを呈す
• T11付近のTrP:胸腹境界部(T11 dermatome)に一致した関連痛を生む
これらは、しばしば内臓痛・椎間関節性疼痛・椎間板由来疼痛と誤診されるケースが多く、適切な徒手評価と臨床推論が不可欠です。
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【触診評価:索状硬結と圧痛の一致】
TrPの評価では、以下の3徴を確認します:
1. **taut band(索状硬結)**の存在
2. local twitch response(局所攣縮反応)
3. referred pain pattern(再現性のある関連痛)
圧痛による放散現象が明確で、かつ患者の訴えと一致する場合、原発性の筋性疼痛が疑われます。
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【治療戦略:多面的アプローチが鍵】
• ドライニードリング(dry needling):最も即効性があるが、免許保持者限定
• 筋膜リリース・マニュアルセラピー(manual therapy):徒手で索状帯の伸張・滑走性回復
• PNF的手技/ポジショナルリリース:筋紡錘の緊張緩和を狙う方法も有効
さらに、**胸郭の可動性・呼吸パターン(diaphragmatic dysfunction)**や、**骨盤帯の安定性(sacroiliac control)**など、全身の動的連鎖(myofascial kinetic chain)を無視せず評価することが肝要です。
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【注意すべき鑑別疾患】
• 腹部の関連痛 → 消化器系疾患(例:胃炎・大腸疾患)との鑑別
• 仙腸部の関連痛 → 仙腸関節障害や坐骨神経痛との鑑別
• 腰痛と腹部緊張の併発 → 交感神経優位による自律神経症状も視野に
筋膜の痛みは、皮膚・筋・内臓・神経を越境して感覚異常を広げるため、**包括的評価(biopsychosocial model)**が欠かせません。
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【臨床の現場から】
表層の筋緊張に惑わされず、深層筋膜の可動性・滑走性・緊張バランスに着目し、施術を構成しています。
疼痛部位に対してではなく、「トリガーとなる原発点」を正確に評価・解除することで、
再発を防ぐ「構造×機能」の統合的アプローチを提供しています。
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