手根管症候群は、手首の手根管内で正中神経が圧迫される状態です。長時間のデスクワーク、反復動作、妊娠、糖尿病、甲状腺機能低下などさまざまな要因が重なると起こりやすくなります。
西洋医学の視点
手根管は尺骨側の有鉤骨・橈骨・舟状骨・月状骨などの骨と、手根靭帯(横手根靭帯)で作られるトンネルです。その管内を正中神経と腱群(屈筋腱9本の腱鞘)が通ります。腱の腫脹や炎症、腱鞘の肥厚、浮腫などが正中神経を圧迫し、神経伝導の遅延につながります。症状は、母指・人差し指・中指・薬指の先端部のしびれ、夜間の強い痛みやしびれ、手を使うと悪化する痛み、母指の対立・つまみ動作の弱さなど。診断は、臨床所見(Phalen・Tinelなどの神経病的兆候)と神経伝導検査、超音波やMRIが補助的に用いられます。治療は、保存療法(手首の固定、休息、NSAIDs、コルチコステロイド局所注射、作業環境の改善)と、症状が重い場合や長引く場合の手根管開放術などの外科的治療があります。多くは症状の改善が見られますが、重度の筋萎縮があると回復が難しくなることもあります。
東洋医学の視点
東洋医学では CTS を「経絡の滞り」や「気・血の流れの乱れ」として捉えます。肝の気が滞ると経絡の流れが悪くなる「肝気鬱結」、血の滞りが生じる「血瘀」、湿邪が邪気として流れを塞ぐ「湿阻絡脈」など、さまざまな病因論で診断します。手首・前腕の痛み・しびれは、経絡の通り道の乱れから生じると考え、ツボ刺激・推拿(マッサージ)・灸・漢方薬を組み合わせて経絡の流れを整えます。鍼灸は手首・前腕の経絡の滞りを緩和することを狙い、ツボの組み合わせは個々の証候に合わせて選ばれます。漢方薬は「肝鬱・血瘀・湿邪・腎虚」など、体の体質や症状の特徴に応じて処方されます。生活習慣の改善、手首の動作の見直し、保温・休養も重要です。東洋医学の視点では、手首の痛みとしびれを全身のエネルギーのバランスと結びつけて考えるため、局所ケアと全身調整を並行して行うのが基本です。
解剖生理学の視点(細胞・神経・筋肉・機序)
末梢神経は、軸索を覆う髄鞘と神経線維を包む内膜・外膜という層で構成され、シグナルを伝える細胞とその支持組織の集合です。正中神経は手の感覚を指先に伝える感覚線維と、母指の運動を司る運動線維を含みます。手根管内は、正中神経のほか屈筋腱群の腱鞘が密集する空間で、腫脹や腱の摩擦が神経を圧迫します。圧迫が続くと髄鞘の障害が生じ、神経伝導速度が低下します。軽度なら脱髄が主で、進行すると軸索傷害(軸索の断裂)も起こり得ます。正中神経の感覚分布は親指・人差し指・中指の腹側半分と爪伸び部、運動分布は母指の内転・外転相対運動を支える母指対立筋群(母指外転筋・母指内転筋の機能)を含みます。 CTSではこれらの筋の弱化・萎縮が後遺症として現れ、特に夜間の就寝時に痛みやしびれが増悪することが多いです。
この病態の解剖生理の要点
- 手根管の構造は、橈側の舟状骨・月状骨、尺側の有鈎骨、そして厚い屈筋支帯(横手根靭帯)によって形成され、管内を正中神経と屈筋腱が通過します。
- 慢性の圧迫は、末梢神経の髄鞘を傷つけ、興奮伝導の効率を低下させ、感覚異常と筋力低下を引き起こします。
- 筋肉側では、母指を動かす「対立」機能を担う母指外転筋・母指内転筋が影響を受け、母指のつまみ動作が難しくなることがあります。
- 症状は、しびれの部位が親指〜中指に広がるパターンと夜間の悪化が典型的です。重症化すると日常動作の障害が顕著になります。
日常生活とセルフケアのヒント
- 作業姿勢を見直す。手首を中立位に保ち、長時間同じ動作を避ける。タイピングやスマホ操作はこまめに休憩を入れる。
- 手首サポーター・夜間ギプスなど、安定させる装具を適切に使う。過度な腱の摩擦を減らします。
- 手の使い方を工夫する。重い物を握りしめる動作や強い力が必要な作業を分散させ、手指の過負荷を減らす。
- 適度な運動とストレッチ。前腕の筋膜リリースや軽いストレッチは血流を改善し、腱鞘の張りを和らげることがあります。
- 医療機関の受診を検討。症状が長引く、夜間痛が強い、筋力低下が出る場合は専門医の評価を受けてください。
まとめ
CTSは、神経・腱・筋の関係性が崩れた結果として現れる症状の集積です。西洋医学は解剖と伝導機序に基づく診断・治療を中心とし、東洋医学は経絡の流れと体全体のバランスを整えるアプローチを併用します。解剖生理学の視点からは、細胞レベルの髄鞘障害と神経伝導の低下、そして筋力・運動機能の影響が結びついています。痛みやしびれが持続する場合は専門家に相談し、適切な診断・治療を受けてください。日常の姿勢改善と適切な休息・運動で、再発を予防することが大切です。
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