脂肪体(脂肪組織)は、私たちの体表面近くから内臓周囲、臓器間に広がる柔らかな組織です。主に白色脂肪(白脂肪組織:WAT)と褐色脂肪(BAT)の2タイプに分かれ、前者はエネルギーを脂肪として蓄える大きな細胞が特徴、後者は熱産生を助けます。
東洋医学的(中医学)視点では、脂肪の蓄積は“痰湿”や“湿気”が体内に滞留する状態として捉えられます。脾胃の機能低下(消化機能の弱さ)と気の巡りの滞りが、脂肪の過剰蓄積を招くと考えられます。治療は、脾の強化・水分の代謝を整え、気血の巡りを改善することを目指します。具体的には脾胃を整える針灸(足三里ST36、豊隆ST40、三陰交、肝経の経絡など)、湿を排除する薬膳・漢方処方(体質に応じて桂枝茯苓丸、六君子湯、二陳湯などが用いられる場合があります)です。生活指導としては、過剰な糖質や脂肪の摂取を控え、適度な運動・睡眠・ストレス管理で“気・血・水”のバランスを整えることが推奨されます。東洋医学は全身のバランスを重視する視点で、脂肪は単なる肉の塊ではなく、体の調和を測る指標と考えられます。
脂肪細胞はホルモン的に活発で、レプチンやアディポネクチンといったサイトカイン・ホルモンを分泌し、空腹感・代謝・炎症の微妙なバランスを体内時計のようにコントロールします。さらに脂肪組織は免疫細胞と対話する小さな内分泌・免疫器官として働き、全身の炎症状態や代謝性疾患と強く関係します。リンパ系とも深くつながっており、脂肪組織の拡大や炎症はリンパの流れや機能に影響を及ぼします。
解剖生理学的には、脂肪組織は脂肪細胞(アディポサイト)により構成され、透明な間質と豊富な毛細血管・リンパ管を含みます。エネルギーを貯蔵するだけでなく、局所の血流・温度を調節し、長鎖脂肪酸を血液・リンパで運ぶ役割を担います。脂肪組織はインスリン感受性と脂解・脂肪酸動員を通じて全身の代謝を左右し、レプチンは脳の摂食中枢に働いて食欲を調整します。炎症性サイトカイン(TNF-α、 IL-6など)の分泌量が増えると、組織の慢性炎症状態につながり、代謝疾患のリスクが高まります。相互に連携するリンパ系は、脂肪組織の“ごみ”や脂質代謝物の排出を助け、免疫細胞の巡回を促します。
リンパとの関係性は二つの視点で重要です。第一に、腸管粘膜の乳糜腔(リンパ管)は食事由来の脂質をキロミクロンとしてリンパへ運び、全身へ分配します。第二に、体の脂肪組織そのものにも小さなリンパ管が走り、代謝物や免疫細胞をリンパ節へ返します。肥満や脂肪組織の炎症が進むとリンパの流れが乱れ、浮腫やリンパ管の機能低下が起こりやすく、リンパ浮腫のリスクが増します。さらに脂肪組織の過剰肥大は、局所組織の圧を高め、血管・リンパ管の微小循環を乱すことがあります。
起こり得る症状・外傷の例(西洋医学的視点):
- 脂肪腫(脂肪腫、lipoma):良性の脂肪組織の塊で、痛みは少ないことが多い。
- 脂肪壊死・硬結:打撲後のしこり、炎症性反応を伴うことがある。
- 脂肪過剰・脂肪分布異常:肥満、脂肪細胞の肥大、局所的な厚みが出ることがある。
- 脂肪塞栓症:大きな外傷や長骨骨折後に脂肪滴が血流にのり肺や脳へ散布する稀な合併症。
- リンパ浮腫・二次性浮腫:リンパ管の損傷・閉塞で四肢等が腫れる。
- Lipedema(脂肪痛症候群)と類似の腫脹:対称性の下肢肥厚と圧痛。
解剖生理学の視点からの要点:
- 脂肪組織は皮下・内臓周囲・臓器間に分布し、エネルギー貯蔵・断熱・衝撃吸収を担う。
- 脂肪細胞はホルモンを産生し、インスリン・レプチン・アディポネクチンによって食欲・代謝を調節する。
- 白色脂肪はエネルギーを蓄え、褐色脂肪は熱産生を促進する。
- リンパ系と血管系は脂肪組織の代謝産物・脂質の運搬・免疫巡回を支える。
- 病的状態では、過剰脂肪と慢性炎症がリンパ機能を乱し、浮腫・感染リスク・組織機能低下に関与する可能性がある。
脂肪体は単なる“脂肪”ではなく、代謝・免疫・リンパの複雑な交差点です。西洋医学・東洋医学・解剖生理学の視点を横断させて理解することで、予防・治療のヒントが見えてきます。体のサインを見逃さず、症状がある場合は医療機関へ相談してください。
補足: 体位や部位によって脂肪分布やリンパ流れには個人差があります。日常の生活習慣の改善と専門家の評価が大切です。
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