心臓と下肢の浮腫は、血管(動静脈)とリンパ系がつくる体液循環のバランス破綻でつながっています。鍵は「毛細血管から間質へ滲み出る量」と「リンパ管が回収できる量」の差。心不全、とくに右心系のうっ血はこの差を拡大し、足に水がたまります。
まず基礎のしくみ
- 毛細血管では、血圧(毛細血管内の静水圧)が間質へ押し出す力、アルブミンなどの膠質浸透圧が引き戻す力をつくります。近年は内皮グリコカリックスの存在により、再吸収は限定的で、日常的な漏出液の多くはリンパが引き受けると理解されています。
- 初期リンパ管は“フラップ弁”で間質液を取り込み、集合リンパ管は逆流防止弁と平滑筋(リンパンジオン)の自発収縮で拍動的に中枢へ送ります。最終的に胸管・右リンパ本幹が鎖骨下静脈へ注ぎます。
- リンパ節は濾過と免疫の拠点で、流路としては抵抗体ですが「ポンプ」ではありません。腫大や線維化があると局所的にリンパ流が滞ります。
心不全が足の浮腫を起こす主経路
1) 中心静脈圧の上昇: 右房圧/静脈圧が高いと、末梢毛細血管の静水圧も上がり、下肢での濾出が増えます。重力で下腿は最も影響を受け、夕方に増悪します。
2) リンパ流出の出口詰まり: 胸管は左鎖骨下静脈で静脈系に合流します。合流先(静脈角)の圧が高いと圧較差が失われ、リンパ管の“後負荷”が増えて流れが鈍ります。右心不全ではまさにここがボトルネックになります。
3) 体液貯留のホルモン応答: 心拍出の低下は腎の灌流低下→RAAS賦活・交感神経亢進→ナトリウム/水の再吸収↑。循環血液量と静脈圧がさらに上がり、濾出が増えます。
4) 弁逆流・肺高血圧: 三尖弁閉鎖不全や肺高血圧は右房圧を一段と押し上げ、うっ血性浮腫を増悪。
5) リンパ機能の二次障害: うっ血と炎症で内皮グリコカリックスが障害され、毛細血管の透過性が上がると、たとえ同じ静脈圧でも漏出が増えます。長期化するとリンパ管の収縮性や弁機能も低下し悪循環に。
「なぜ足に出やすい?」
- 立位での静水圧、長い静脈カラム、筋ポンプの不活発(座りがち・夜間)により、下肢は濾出>回収になりやすいからです。ふくらはぎ筋ポンプは静脈還流とリンパ輸送の“補助ポンプ”で、歩行や足関節運動が流れを助けます。
リンパ節との関係
- 心不全由来の浮腫では、リンパ節の病変そのものが主因ではありません。ただし、感染や腫瘍でリンパ節が腫大していると、同側の局所浮腫が強く出ます。心不全+リンパ路障害が重なると、難治化しやすいです。
蛋白・膠質浸透圧の視点
- 心不全の浮腫は基本“低蛋白のトランスデュード”。一方、長引く静脈高圧や炎症で蛋白漏出が増すと、間質の膠質浸透圧が高まり、さらに水を引き込む悪循環に。低アルブミン血症(肝・腎・栄養)を合併すれば一層悪化します。
鑑別のポイント
- 心不全性: 両側性、圧痕性(pitting)、就寝で軽減、頸静脈怒張や体重増加を伴うことが多い。
- 静脈不全性: うっ滞性皮膚炎、色素沈着、下腿の重だるさ、静脈瘤。
- リンパ浮腫: しばしば片側優位、進行で非圧痕性、Stemmer徴候陽性、皮膚肥厚。リンパ節/リンパ管障害が直接原因。
治療・ケアの実践
- 原因治療: 心不全の最適化(利尿薬、神経体液性抑制、塩分/水分管理)。右心系負荷の原因(肺高血圧、弁膜症)の評価。
- リンパ・静脈還流の補助:
- 弾性ストッキングや弾性包帯(心不全の増悪期は主治医と相談の上、低圧から慎重に)。
- 下肢挙上、こまめな歩行、足関節の底背屈運動で筋ポンプ活性化。
- 皮膚ケアと感染予防(蜂窩織炎はリンパ機能をさらに損なう)。
- 薬剤確認: ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬などは末梢浮腫を助長し得ます。処方の見直しは医師と相談を。
- 注意: 進行した心不全(急性増悪やNYHA III–IV)では強い圧迫や大量の徒手リンパドレナージは前負荷を急に増やす可能性があるため、専門家の監督が安全です。
まとめ
心不全では「静脈うっ血で漏れる量↑」と「静脈圧上昇でリンパの出口が詰まり回収↓」が同時に起こり、特に重力の影響を受ける下肢に浮腫が出ます。リンパ節は主因ではないものの、リンパ路の抵抗や炎症が重なると難治化します。心機能の最適化に加え、静脈・リンパの流れを助ける日常ケアが実務的な解決になります。
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