四十肩(肩関節周囲炎)や腱板障害などで「肩が上がらない(挙上制限)」が起きるのは、単に三角筋が弱いからではなく、肩甲上腕関節(GH)・肩甲胸郭関節(ST)・鎖骨/胸鎖関節(SC)・肩鎖関節(AC)の協調(肩甲上腕リズム)が崩れ、さらに関節包・滑液包・腱板・神経が関与して「痛み」と「防御性筋緊張」と「機械的拘縮」が重なるためです。運動学的に重要な関与組織を、筋・補助筋・神経の観点でまとめます。
1) 挙上(外転/屈曲)に必須の主動作筋と腱板の役割
肩の挙上は、上腕骨頭が関節窩の中央付近に保たれつつ回旋する必要があります。ここで中心となるのが三角筋と**腱板(ローテーターカフ)**です。
・三角筋(前部/中部)
挙上の主動作筋。ただし単独で強く収縮すると、上腕骨頭を上方へ剪断しやすく、肩峰下での衝突(肩峰下インピンジメント)を助長します。
・棘上筋
外転初期(おおむね0~15°)の寄与に加え、三角筋と協働して骨頭を関節窩へ圧着(concavity compression)させます。
・棘下筋・小円筋(外旋筋群)、肩甲下筋(内旋)
これら腱板は「回す筋」というより、挙上中に骨頭を下方/後方へ誘導するなどの動的安定化で重要です。特に外旋筋群が弱いと、挙上時に骨頭が前上方へ偏位し、痛み→筋抑制→さらに挙上困難という連鎖が起きます。
四十肩では炎症期の痛みが腱板の収縮を抑制し、さらに拘縮期には関節包の硬さが増して、腱板が働いても「そもそも動く余地」が減ります。
2) 肩甲骨の上方回旋と後傾を作る補助筋(=実質的に“挙上筋”)
腕を頭上まで上げるには、上腕骨だけでなく**肩甲骨の上方回旋・後傾・外旋(外方回旋)**が必要です。ここが崩れると、上腕骨頭のクリアランスが減って痛みが増えます。
・前鋸筋
肩甲骨の上方回旋・後傾に強く関与し、肩甲骨を胸郭に安定化(翼状肩甲の抑制)します。機能低下すると、肩甲骨が内側縁で浮きやすくなり、挙上が「途中で詰まる」感じが出やすいです。
・僧帽筋 上部・下部
上部は鎖骨挙上を介して上方回旋に寄与、下部は肩甲骨下角を下制しつつ上方回旋と後傾を促します。上部優位で下部が働かないと、肩がすくむ代償が増え、頸部痛や胸郭出口部の負担にもつながります。
・僧帽筋 中部・菱形筋
肩甲骨の内転・安定化に寄与。過緊張だと肩甲骨が過度に内転/下方回旋し、挙上時の上方回旋が出にくくなることがあります。
・肩甲挙筋
過緊張で下方回旋・挙上(すくみ)に偏り、挙上の質を下げることがあります。
3) 関節包・靭帯・滑液包:四十肩で「機械的に上がらない」を作る要素
四十肩の代表像である凍結肩(癒着性関節包炎)では、筋力以前に関節包の拘縮が主因になります。
・関節包(特に前下方~下方)
典型的に外旋制限が先行し、次いで外転・屈曲が制限されやすいです。下方関節包が硬いと、外転で必要な「骨頭の下方滑り」が出ず、早期に詰まりやすくなります。
・烏口上腕靭帯(CHL)・回旋筋腱板疎部(ローテーターインターバル)
外旋や挙上初期の制限に関与しやすい領域です。
・肩峰下滑液包
炎症(滑液包炎)があると、60~120°付近の痛み(いわゆるペインフルアーク)が出やすく、痛みの回避で肩甲上腕リズムが破綻しやすくなります。
4) 「上がらない」を起こしうる神経:筋力低下と運動制御の破綻
痛み由来の筋抑制に加え、神経障害があると明確に挙上能力が落ちます。
・腋窩神経(C5~C6)
三角筋・小円筋を支配。障害があると外転が弱く、肩外側の感覚低下を伴うことがあります。
・肩甲上神経(C5~C6)
棘上筋・棘下筋を支配。障害や絞扼で外転初期や外旋が低下し、腱板による骨頭求心位保持が崩れやすいです。
・長胸神経(C5~C7)
前鋸筋支配。障害で翼状肩甲が出ると、肩甲骨の上方回旋が不足し挙上困難になります。
・副神経(脳神経XI)
僧帽筋支配。肩甲帯の安定性低下で挙上が破綻します。
・頸椎神経根(特にC5)由来の関連痛/筋力低下
四十肩と似た症状(夜間痛、挙上困難)を呈することがあり、鑑別が重要です。
5) まとめ(運動学的な結論)
肩が上がらない現象は、
・腱板による骨頭の求心位保持の破綻
・肩甲骨上方回旋(前鋸筋+僧帽筋)の不足による肩甲上腕リズムの崩れ
・関節包/靭帯の拘縮による関節可動域そのものの減少
・疼痛と神経要因による筋抑制・筋力低下
が重なって生じます。どれが主因かで介入(可動域、疼痛管理、運動制御、神経評価)の優先順位が変わるため、臨床では「痛みの位相(炎症期か拘縮期か)」「他動可動域も制限されるか」「肩甲骨運動の代償」「神経学的所見」を組み合わせて評価します。
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