修行入り
"一人前の寿司職人になれるように鍛えて欲しい" と頼むまでは、毎朝、大将が魚を仕入れる、川崎北部市場に同行させてもらっていました。
ところが、弟子入りを許された翌朝、
"今日からは出前下げ(出前した器の回収)をやれ"
と命令されたのです。
土地勘が何もないところで、伝票を見て、寿司桶やうなきの器を下げに行く係になったのです。
その周りは地名が入り組んでいて、今のように地図のアプリもなかったので、大変でした。
雨の日も風の日も、もちろん炎天下でも、カブに乗って、出前、出前下げ、皿洗いと、前日までとまるっきり違う生活が始まったのです。
今までの人生になかった早起き、極端な睡眠不足、毎日繰り返される単調な仕事。
正直なところ、大将に対して"なんで⁉️"という思いもありました。
けれどもこの経験が、どれほど必要で貴重だったかということに、後々自分が出店してから気付くのでした。
まず、配達に行ってくれるアルバイトの子や、その他お手伝いをしてくれる人達の辛さが分かります。
そして、彼らを思いやる気持ちが持てるようになったのです。
暑い日は冷たい飲み物を、寒い日は温かい飲み物を、雨の日は大量のタオルをと、気遣うようになりました。
また、年末年始の忙しい時期に、49日間も休みなく働かなければならない時もありました。
しかし、休みが取れると大将に旅行に連れて行ってもらったのです。
そんな楽しかった思い出も、その後自分もスタッフと一緒に中国に行ったり、海に行ったりしたことにつながっています。
今でも、この大将の厳しくも愛情ある指導に、感謝しています。