脳血管性認知症では、多発性脳梗塞による認知機能の低下と、脳の抹消循環不全による認知機能の低下があります。
血管が老化すると、末梢血管の弾力性が低下し血圧が上昇すると考えられています。
したがって高齢者の降圧治療では、認知機能への注意が必要です。
いっぽう、米国心臓病学会は2017年に高血圧治療ガイドラインに
「ステージ1(S1)高血圧カテゴリ」(最高血圧130~139/最低血圧80~89)を新たに設定。
そんななか、ドイツ研究センターヘルムホルツ協会・疫学研究所のカールハインツ・ラドビッヒ博士らの研究チームは、
1万1603人の中年期ドイツ人男女を対象に喫煙、肥満などの生活習慣、血圧、抑うつ状態の有無、心臓病の発症などの医学的データを10年間にわたり追跡調査し、血圧と心臓血管疾患による死亡率との関連性を検討しました。
その結果、ステージ2(S2)高血圧(140/90以上)群では、心臓血管疾患による死亡率が正常血圧(120/80未満)群に比べて61%上昇するが、
S1高血圧群では心臓血管疾患による死亡率の上昇は有意ではありませんでした。
さらに抑うつ状態の頻度を調べた結果、降圧剤治療を受けていない高血圧群の33%が抑うつ状態であったのに対して、降圧剤の治療を受けている高血圧症患者の47%が抑うつ状態であることが分かっています。
ラドビッヒ博士は、もし米国を見習って欧州でも高血圧の治療対象をS1高血圧群に拡大すると、抑うつ状態が増加するだろうと警鐘を鳴らしています。
血圧が高い高齢者については、磁気共鳴画像化装置(MRI)で脳梗塞や抹消循環不全による病変の有無をチェックし、認知機能が低下しないような降圧治療計画を立てる必要があるでしょう。
※文中の血圧の単位はミリHg
白澤卓二(国際予防医学協会理事長)ブログより引用