親指側の手首が痛い、指の付け根が腫れている、指を動かすと引っかかる――このような症状には、腱鞘炎が関係している可能性があります。
腱鞘炎は、手首だけに起こるものではありません。親指や人差し指、中指などの指にも起こり、症状によっては「ドケルバン病」や「ばね指」と呼ばれます。
特に、次のような動作で痛みを感じる方は注意が必要です。
ペットボトルのふたを開ける
タオルや雑巾を絞る
赤ちゃんを抱き上げる
スマートフォンを親指で操作する
パソコンのマウスを長時間使う
包丁やフライパンを持つ
指を曲げ伸ばしすると引っかかる
1.腱鞘炎とは
腱鞘炎とは、筋肉と骨をつなぐ「腱」と、腱が通るトンネルのような「腱鞘」の間に炎症や通過障害が起こった状態です。
腱は筋肉の力を指へ伝える組織
指や手首を動かす筋肉の多くは、前腕にあります。
前腕の筋肉から伸びた腱が手首や指につながり、筋肉の力を指先へ伝えることで、次のような動作ができます。
指を曲げる・伸ばす
親指を広げる
物を握る
つまむ
手首を動かす
腱は、細いロープのような働きをする組織と考えると分かりやすいでしょう。
腱鞘は腱が通るトンネル
腱鞘は、腱が骨から浮き上がらず、決められた場所を滑らかに動けるように支える組織です。
正常な状態では、腱は腱鞘の中をスムーズに通ります。しかし、手首や指を繰り返し使い続けると、腱と腱鞘の間で摩擦が増えます。
その結果、次のような変化が起こる場合があります。
腱や腱鞘に炎症が起こる
腱鞘が腫れる、厚くなる
腱の表面が傷つく
腱の通り道が狭くなる
腱が引っかかる
この状態が腱鞘炎です。
腱鞘炎は手首だけに起こるものではない
腱鞘炎というと、手首の親指側が痛む症状を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、腱鞘炎にはいくつかの種類があり、痛む場所や症状が異なります。
代表的なものが次の2つです。
親指側の手首が痛む「ドケルバン病」
指の付け根が痛み、引っかかる「ばね指」
同じ腱鞘炎でも、関係する腱や腱鞘、治療方法が異なるため、痛む場所を確認することが大切です。
2.腱鞘炎の種類
腱鞘炎にはさまざまな種類がありますが、特に多いのがドケルバン病とばね指です。
ドケルバン病
ドケルバン病は、手首の親指側に起こる腱鞘炎です。
親指を広げたり伸ばしたりする際に働く、次の2本の腱が関係します。
長母指外転筋腱
短母指伸筋腱
この2本の腱が手首の親指側にある腱鞘を通る部分で炎症や狭窄が起こり、親指や手首を動かしたときに痛みが現れます。
ドケルバン病で起こりやすい症状
手首の親指側が痛む
親指を広げると痛い
親指側の手首が腫れる
物を持つと痛む
タオルを絞ると痛い
ペットボトルのふたを開けにくい
赤ちゃんを抱き上げると痛む
スマートフォン操作で痛みが強くなる
妊娠・出産期や更年期の女性、手や指をよく使う仕事、スポーツをしている方などに起こりやすいことが知られています。
ばね指
ばね指は、指を曲げる腱と腱鞘の間で炎症や通過障害が起こる腱鞘炎です。
指を曲げようとしたときや伸ばそうとしたときに、腱が狭くなった腱鞘へ引っかかります。
引っかかりが外れると、指が「カクン」とばねのように動くため、ばね指と呼ばれます。
ばね指で起こりやすい症状
指の付け根が痛む
指の付け根が腫れる
指を動かすと引っかかる
指がカクンと急に伸びる
朝に指が動かしにくい
指が曲がったまま戻りにくい
悪化すると指が動かなくなる
ばね指は親指や中指に多くみられますが、薬指、人差し指、小指にも起こることがあります。更年期や妊娠・出産期の女性に加え、糖尿病、関節リウマチ、透析を受けている方にも起こりやすいとされています。
ドケルバン病とばね指の違い
種類 主に痛む場所 特徴的な症状
ドケルバン病 手首の親指側 親指を広げる、物を持つと痛む
ばね指 手のひら側の指の付け根 指が引っかかり、カクンと動く
手首が痛い場合と、指が引っかかる場合では対応が異なります。
腱鞘炎のマッサージや鍼灸を検討する場合も、まずはどこに痛みや腫れがあるかを確認することが大切です。
3.腱鞘炎で起こりやすい症状
腱鞘炎の症状は、軽い違和感から始まり、徐々に日常生活へ影響することがあります。
手首・親指の痛み
ドケルバン病では、手首の親指側に痛みや腫れが現れます。
次のような動作で痛みが強くなる場合があります。
親指を広げる
親指を反らす
手首を小指側へ曲げる
荷物をつかむ
子どもを抱き上げる
雑巾を絞る
フライパンを持つ
初期には動かしたときだけ痛み、進行すると何もしていないときにも痛むことがあります。
指の付け根の痛み・腫れ
ばね指では、手のひら側にある指の付け根に痛みや腫れが現れます。
押したときに痛むだけでなく、指を曲げ伸ばしする際に違和感や抵抗を感じる場合があります。
指の引っかかり
ばね指が進行すると、指を伸ばす途中で引っかかりが起こります。
軽い場合は自力で伸ばせますが、症状が強くなると、反対の手で指を伸ばさなければ戻らないこともあります。
さらに悪化すると、指が曲がったまま、または伸びたまま動かなくなる場合があります。
朝に症状が強い
ばね指では、朝起きたときに指がこわばったり、動かしにくかったりすることがあります。
日中に指を動かしていると一時的に軽くなる場合がありますが、炎症や通過障害が改善したとは限りません。
握る・つまむ動作が難しくなる
腱鞘炎があると、次のような日常動作が難しくなることがあります。
ペットボトルのふたを開ける
箸やペンを使う
包丁を握る
ドアノブを回す
洗濯ばさみを使う
スマートフォンを持つ
バッグを持ち上げる
痛みを避けようとして、反対の手や肘、肩に負担がかかることもあります。
しびれは腱鞘炎以外の可能性もある
腱鞘炎の中心的な症状は痛み、腫れ、動かしにくさです。
手や指に強いしびれがある場合は、手根管症候群や首・腕の神経障害など、別の原因が関係している可能性があります。
次の症状がある場合は、整形外科や手外科へ相談しましょう。
指の感覚が鈍い
手に力が入りにくい
物を頻繁に落とす
複数の指がしびれる
夜中にしびれで目が覚める
筋肉が痩せてきた
4.腱鞘炎の主な原因・なりやすい人
腱鞘炎は、単純に「手を使いすぎたから」だけで起こるとは限りません。
手の使用量、身体的な特徴、ホルモンの変化、基礎疾患などが重なって発症することがあります。
手首や指を繰り返し使う
手首や指を何度も動かすと、腱と腱鞘の間に摩擦が起こりやすくなります。
腱鞘炎につながりやすい動作には、次のようなものがあります。
洗い物や掃除
洗濯物を干す
包丁や調理器具を使う
パソコン・マウス操作
スマートフォン操作
楽器演奏
裁縫や細かい作業
テニスや野球などのスポーツ
工具を使う仕事
赤ちゃんの抱っこや育児
産後の腱鞘炎では、赤ちゃんを抱き上げる動作が大きな負担になります。
特に、親指を大きく開き、手首を曲げた状態で赤ちゃんの頭や身体を支えると、親指側の腱へ負担が集中します。
授乳、沐浴、着替え、抱っこなどが一日に何度も繰り返されるため、十分に休ませることが難しい点も特徴です。
妊娠・出産期、更年期
ドケルバン病やばね指は、妊娠・出産期や更年期の女性に多くみられます。
手の使いすぎだけでなく、ホルモンバランスや組織のむくみなどが影響する可能性があります。
そのため、本人の手の使い方だけが悪いと決めつけるべきではありません。
糖尿病・関節リウマチ・透析
ばね指は、糖尿病や関節リウマチ、透析を受けている方にも起こりやすいことが知られています。複数の指に症状が現れる場合もあります。
基礎疾患がある場合は、マッサージや鍼灸だけで対応せず、医療機関での治療と併用することが重要です。
一度に強い負担がかかった
繰り返し動作だけでなく、急に重い物を持ったり、スポーツや作業で強い力を加えたりした後に症状が出ることもあります。
ただし、転倒や衝突後に強い痛みや腫れが出た場合は、骨折や捻挫などの可能性もあるため、早めに整形外科を受診してください。
5.腱鞘炎にマッサージは有効?
腱鞘炎にマッサージを行う場合は、「痛む場所を強く揉めばよい」という考え方は避ける必要があります。
症状の時期や炎症の程度によって、適切な対応が異なります。
痛む腱鞘を強く揉まない
次のような状態では、患部への強いマッサージは避けましょう。
腫れている
熱を持っている
触るだけで強く痛い
何もしていなくても痛む
動かすと鋭い痛みが出る
赤くなっている
炎症が強い場所を繰り返し押したり揉んだりすると、腱と腱鞘への刺激が増え、症状が悪化する可能性があります。
「痛いほど効く」と考えず、強い刺激を避けることが大切です。
マッサージは前腕の筋肉を対象にする
指や手首を動かす筋肉の多くは、肘より下の前腕にあります。
手首や指を繰り返し使っている方では、前腕の筋肉が緊張し、腱への負担を増やしている場合があります。
そのため、マッサージでは痛む腱鞘そのものではなく、前腕の筋肉を軽く緩める方法を検討します。
肩や肘も確認する
手首の負担は、手だけで決まるものではありません。
肩が上がった状態や、肘を伸ばしたまま作業する癖があると、手首や指へ負担が集中しやすくなります。
手首だけでなく、前腕や肘、肩まわりの状態も確認し、必要に応じてマッサージなどの手技療法を行っています。
6.腱鞘炎に対して鍼灸でできること
腱鞘炎に対する鍼灸では、狭くなった腱鞘を直接広げたり、傷んだ腱を元どおりにしたりすることはできません。
主に、前腕や手首周辺の筋緊張、痛みに伴う動かしにくさなどに対して、補助的な施術を行います。
前腕の筋緊張にアプローチする
指や親指を動かす筋肉は、前腕から腱となって手首や指につながっています。
鍼灸では、症状や動作を確認したうえで、次のような部位への施術を検討します。
前腕の屈筋群
前腕の伸筋群
親指を動かす筋肉
肘の周辺
手首周辺
肩や首周辺
痛みのある場所だけでなく、手や腕の使い方によって負担がかかっている筋肉を確認します。
痛みに伴う動かしにくさを軽減する
腱鞘炎があると、痛みを避けるために指や手首を動かさなくなります。
その結果、前腕や肩に力が入り、さらに動かしにくくなる場合があります。
鍼灸では、こうした周辺筋の緊張を緩め、日常動作を行いやすい状態を目指します。
7.自宅でできる腱鞘炎対策
腱鞘炎のセルフケアで最も大切なのは、痛みを我慢して動かし続けないことです。
完全に手を使わないことが難しくても、連続して使う時間や負担のかかる動作を減らすことで、腱や腱鞘への刺激を抑えられます。
痛む動作を確認する
まず、どの動作で痛みが出るかを確認します。
スマートフォン操作
マウス操作
抱っこ
調理
洗濯
タオル絞り
楽器演奏
スポーツ
荷物を持つ
痛む動作が分かれば、その動作の回数を減らしたり、別の方法へ変えたりできます。
スマートフォンを両手で使う
片手でスマートフォンを持ち、親指だけで操作すると、親指側の腱へ負担が集中します。
次のように工夫しましょう。
両手で持つ
人差し指も使う
スマホスタンドを使う
音声入力を活用する
長文入力を減らす
定期的に手を休める
抱っこの方法を見直す
赤ちゃんを抱くときは、親指と手首だけで支えないようにします。
手首を大きく反らさない
親指を広げすぎない
前腕全体で支える
身体へ赤ちゃんを近づける
授乳クッションを利用する
抱き上げる際は両腕を使う
手だけでなく、肩や身体全体を使うことが負担軽減につながります。
マウスやキーボードを調整する
マウスを身体の近くに置く
肘を机や肘掛けで支える
手首を反らしたまま操作しない
マウスを強く握らない
ショートカットキーを活用する
30~60分ごとに休憩する
手首だけを動かすのではなく、腕全体でマウスを動かす意識も大切です。
サポーターやテーピングを利用する
サポーターやテーピングは、痛む動作を制限し、手首や親指を休ませるために使います。
ただし、強く締めすぎると、しびれや血流低下につながることがあります。
指先が白くなる
しびれが出る
冷たく感じる
痛みが増える
といった場合は、すぐに外してください。