悩みの種だらけ?|原田文植 医師コラム

■コラムテーマ
『言葉は身体のコントローラー』

医師・医学博士 原田文植先生
1971年、大阪生まれ。医師、医学博士、内科認定医、認定産業医、スポーツ健康医、在宅医療認定医。大阪医科大学卒業後、大阪府済生会中津病院血液リウマチ内科、国立感染症研究所を経て2008年より蔵前協立診療所所長として、地域医療に従事。年間のべ約2万人を診療している。

「ブルース」というジャンルの音楽がある。
黒人が奴隷として働いていた頃、憂さ晴らしに歌った音楽が発祥とされている。
現代のロックやポップスのルーツでもある。
「ブルース」はときどき、「演歌」と訳されることがある。
実際、演歌で「柳ヶ瀬ブルース」や「中の島ブルース」などとタイトルに「ブルース」がつく曲がある。

演歌と黒人ブルースには、違いがある(異論はあるかもしれないが)。
日本のブルースは「別れても好きな人」。
黒人ブルースは「別れたら次の人」だ。
黒人ブルースは、音楽性にも歌詞にも「強さ」が存在する。
挫けない強さが。

木村さん(65歳)は、夫婦関係がうまくいっていない。
しばしばその相談を受けていた。
「熟年離婚もありですよ。ウチの両親もそうだし」
修復に向けての工夫は頭打ちだった。
そんなさなか、木村さんは「腰痛」を発症した。
これまでに経験したことのないような腰痛だった。
投薬、運動の助言などが奏功し、腰痛は消えた。
「痛みが治まったら夫への不満が強くなった」
木村さんは残念そうに口にした。
痛い間、夫への不満が消えていたそうだ。
痛みが「悩み」を忘れさせてくれていたのだ。
「痛み」というのも「エスケープ反応」の一種なのかもしれない…

夫婦不仲も痛みも、いわば「悩みの種」だ。
「悩みの種」はよくできた日本語だ。
「悩み」と「種」を分別しているところが素晴らしい。
「悩みの種」は皆が持っている。そしていくらでも持つことはできる。
大切なのは「悩みの種」に水や肥料を与えないことだ。
「私は悩みません。悩みの種はありますが」
ということもできるのだ。

目の前でニコニコしている人がいる。
絶対この人にも「悩みの種」はあるはずだ。
ニコニコしてくれてるんだ。みんなのために!
仏教用語に「和顔施(わがんせ)」という言葉がある。お布施の一種だ。
喜捨(きしゃ)するものが何もない?
じゃあ和やかな笑顔を差しだそう。

そういう意味らしい。

「ブルース」は「悩みの種」と訳すのが一番いいのでは?
「別れ」も次の出会いへのチャンスと考える黒人ブルース。
逆境を笑い飛ばす強さを持ちたい!

人間関係をたくさん築いている人。用事の多い人。
そういう人は当然「悩みの種」は多くなる。
しかし、ひとつひとつの「悩みの種」を「悩み」に成長させている暇がない。
「仕事をしている間は痛みを忘れる」
という患者さんは非常に多い。

逆に、ヒマな高齢者が最も痛みを訴える。
簡単に「悩み」に成長させてしまうのだ。

残念なのは、仕事を「悩み」に成長させている患者さんだ。
それが「病」という新たな「悩み」にもつながる。

「辞めたら?仕事を」
そんな助言しかできなくなる。
それが一番の悩みの種だ…

 

◆執筆◆

原田プロフィール
医師・医学博士
原田文植(はらだ ふみうえ)先生

1971年、大阪生まれ。医師、医学博士、内科認定医、認定産業医、スポーツ健康医、在宅医療認定医。大阪医科大学卒業後、大阪府済生会中津病院血液リウマチ内科、国立感染症研究所を経て2008年より蔵前協立診療所所長として、地域医療に従事。年間のべ約2万人を診療している。2018年、医療と教育に特化したONE LOVEビルを建設。医療従事者向けに「日本メディカルコーチング研究所」、一般の患者向けに「よろず相談所 One Love」を開設。武道家・格闘家との交流、映画出演、音楽ライブ活動など幅広く活躍。著書に『病は口ぐせで治る!』(フォレスト出版)がある。

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