ホメオスタシスと不摂生|人はなぜ「不安定」に惹かれてしまうのか?

ホメオスタシス

『ホメオスタシス』ってご存知ですか? それは、からだの内部環境を一定に保とうする機能。不摂生に陥りがちな年末年始、多くの人はホメオスタシスから脱することで、その存在を知ることに。「不安定こそ記憶に残る」という原田文植医師が、悩ましくも愛おしい“不摂生”との付き合い方をやさしく説きます。

■コラムテーマ
『言葉は身体のコントローラー』

医師・医学博士原田文植先生
1971年、大阪生まれ。医師、医学博士、内科認定医、認定産業医、スポーツ健康医、在宅医療認定医。大阪医科大学卒業後、大阪府済生会中津病院血液リウマチ内科、国立感染症研究所を経て2008年より蔵前協立診療所所長として、地域医療に従事。年間のべ約2万人を診療している。

中島さん(79歳女性)が風邪で来院した。以下診療風景だ。
「風邪引いちゃったみたい」
「よかったじゃない」
「何がよかったのよ!」
「記憶に残る冬になったでしょ」
「人の不幸を軽く扱うわね」
中島さんは呆れている。
こういう「先進医療」に怒る患者さんが、あとを絶たない。
スタッフは苦笑いするのみ。主治医のみがケタケタ笑っている。
もちろん「病名」は選ぶ。「風邪ごときだから」である。
死亡診断書の病名になることはない…

自分の記憶を紐解いてみる。
思い出されるのは?
「失敗」と「挑戦」ばかり。
順風満帆な部分は覚えていない。
今朝無事に通ってきた道は記憶にない。
道中、犬のウンコを踏めば、一日中思い出す。
被害が大きいほど…
人生がその人の記憶であるとすれば、失敗と挑戦だけが人生となる。
失敗と挑戦という「不安定」が人生の主役なのだ。

ちなみに音楽も「不安定」がないと成立しない。
音楽の不安定要素の一つに「不協和音」がある。
ドとド#、ドとファ#
同時に鳴らしてみればいい。
「気持ち悪い」と感じるはずだ。
大抵の人に共通する本能的な違和感だ。
「不安定」が「安定」への推進力を生み出す。
不協和音のないメロディは大抵つまらない。

からだの内部環境を一定に保つ機能を「ホメオスタシス」という。
人体の驚異的な回復力と、酷使に耐えられる強い抵抗力はホメオスタシスのおかげだ。
人体のホメオスタシスは、呼吸する空気、食べる食物、さらには考え方によっても影響を受ける。
ホメオスタシスから飛び出さなければ、ホメオスタシスの存在がわからない。
たとえば、「不摂生」はホメオスタシスから逸脱させる。
いわば、ホメオスタシスから脱出し、逮捕される安堵感。
不摂生が魅力的なのもきっとホメオスタシスのおかげだ。
ただし、「ほどほど」が大切だ。
ホメオスタシスのバランスの崩れ方が大きくなると、死に至る病となる。
ちなみに加齢とは、ホメオスタシスの回復力が徐々に低下していく、生理的過程なのだ。 

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◆執筆◆

原田プロフィール
医師・医学博士
原田文植(はらだ ふみうえ)先生

1971年、大阪生まれ。医師、医学博士、内科認定医、認定産業医、スポーツ健康医、在宅医療認定医。大阪医科大学卒業後、大阪府済生会中津病院血液リウマチ内科、国立感染症研究所を経て2008年より蔵前協立診療所所長として、地域医療に従事。年間のべ約2万人を診療している。2018年、医療と教育に特化したONE LOVEビルを建設。医療従事者向けに「日本メディカルコーチング研究所」、一般の患者向けに「よろず相談所 One Love」を開設。武道家・格闘家との交流、映画出演、音楽ライブ活動など幅広く活躍。著書に『病は口ぐせで治る!』(フォレスト出版)がある。

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