「咳は免疫反応だから、基本的に止めない方がいい」という原田文植 医師。しかし近年、他人の咳が気になる人が多くなっている。咳エチケットとしてのマスク、風邪予防としてのマスク……。“マスク大国”とも囁かれる日本の冬に、原田医師が目にした光景とは!?
■コラムテーマ
『言葉は身体のコントローラー』
医師・医学博士原田文植先生
1971年、大阪生まれ。医師、医学博士、内科認定医、認定産業医、スポーツ健康医、在宅医療認定医。大阪医科大学卒業後、大阪府済生会中津病院血液リウマチ内科、国立感染症研究所を経て2008年より蔵前協立診療所所長として、地域医療に従事。年間のべ約2万人を診療している。
昨年の冬、往診中に驚くべき光景を目にした。
小学校の校庭だ。生徒はそれぞれ縄跳びや球技をしている。
どうも体育の授業中のようだ。
生徒の大半がマスクを着用しているのだ!
今時の小学校はこんなことになっているのか!
感染を広めたくない学校側の気持ちもわかるが、これでは「高山トレーニング」ではないか!
「高山病」の症状、めまいや吐き気、頭痛が出たらどうするの?
すぐに関係者を通じて、学校に指導した。
今年の風邪は咳が遷延している人が多い(うちの細君も長引いている…)。
例年と全く違う時期にインフルエンザが流行した。
ラグビー ワールドカップで南半球の人たちがたくさん来日したことに起因すると考えられている。
インフルエンザも輸入感染症なんだなあ、とつくづく実感する。
何らかのウイルスが原因で風邪を引く。
上気道、つまり鼻腔から喉頭までの部位に起こる急性炎症の症状を呈する疾患を『かぜ症候群』という。
「風邪」は略称だ。
だから、「気管支炎」や「肺炎」は「かぜ」とは区別される。明確な線引きが難しいケースもしばしばある。
上気道の粘膜には「線毛」と呼ばれる毛のような突起が存在している。この線毛が波打ち、入ってきたホコリやバイ菌を喉の方に運び出すのだ。咳やくしゃみが移動能力にアクセルをかけ、排泄を促進する。
専門的な説明を並べたが、要するに「咳は免疫反応だ」ということだ。身体に備わった「防御機能」なのだ。
だから、基本的に咳は止めない方がいい。余談だが、下痢や発熱も免疫反応の一種だ。
ただし、体力の消耗が激しいときや、咳のせいで睡眠が妨げられる場合は止めた方がいい。
「咳喘息」という病名がある。「気管支喘息」とは区別される比較的新しい概念だ。風邪などの気道感染症が治癒しても、咳だけが残る。
気管支喘息同様、吸入ステロイドがよく効く。2週間ほどの使用で治癒するのが気管支喘息と異なる点だ。
ステロイドが効くので、「アレルギー疾患」として分類される。
上気道炎が引き金になって、気道が過敏になっていることが原因と考えられているが、不明な点が多い。
アレルギー疾患は精神的な要素も大きい。熱は演技でなかなか出せないが、咳は意識的に出すことができる。
アピールとしての「咳払い」は、みな経験したことがあるはずだ。
人前で咳をしてはいけない、との思いが余計に咳を出させてしまうのかもしれない。
最近、他人の咳が気になる人が多くなってきた。日本人のマスクの多さを不思議がる外国人も多いらしい。
「うつされたくない」「うるさい」
気持ちはわからないでもない。
副流煙の問題もそうだが、もう少し、社会が寛容であって欲しいと願う(非喫煙者です、一応…)。
煙や咳への嫌悪感もアレルギーの一種なのかもしれない……
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◆執筆◆
医師・医学博士
原田文植(はらだ ふみうえ)先生
1971年、大阪生まれ。医師、医学博士、内科認定医、認定産業医、スポーツ健康医、在宅医療認定医。大阪医科大学卒業後、大阪府済生会中津病院血液リウマチ内科、国立感染症研究所を経て2008年より蔵前協立診療所所長として、地域医療に従事。年間のべ約2万人を診療している。2018年、医療と教育に特化したONE LOVEビルを建設。医療従事者向けに「日本メディカルコーチング研究所」、一般の患者向けに「よろず相談所 One Love」を開設。武道家・格闘家との交流、映画出演、音楽ライブ活動など幅広く活躍。著書に『病は口ぐせで治る!』(フォレスト出版)がある。