■コラムテーマ
『言葉は身体のコントローラー』
医師・医学博士 原田文植先生
1971年、大阪生まれ。医師、医学博士、内科認定医、認定産業医、スポーツ健康医、在宅医療認定医。大阪医科大学卒業後、大阪府済生会中津病院血液リウマチ内科、国立感染症研究所を経て2008年より蔵前協立診療所所長として、地域医療に従事。年間のべ約2万人を診療している。
子供の頃から親や教師に散々
「落ち着きがない子供」
という「烙印(らくいん)」を押された。
通信簿にそう書かれないことがなかった。
しかし、その「烙印」は全く効き目がなかった。
多分今も落ち着きがない。
だけど、万事「能力相応」にはやれていると思う。
要は「落ち着きのなさ」が人生の足を引っ張っていないということだ。
「我が子が ADHDと診断された。どうすればいいか?」
という相談を受けることが多い。
日本語では「注意欠陥多動性障害」と訳される。
「発達障害」という診断も非常に増えている。
まず、医師の側の問題を指摘したい。
つねづね”Disorder” を「障害」と訳すのは強すぎると考えている。
あくまでマジョリティからのズレにすぎない。
日本語の「障害」にはもっと重い意味がある。
たとえば「システム障害」などの使い方をされる。
この場合の「障害」は「機能不全」を表している。
「診断名」を与える際には慎重を期すべきだ。
40年前に ADHD という診断名はなかった。
あれば、自分はそう診断されていただろう。
今と違う人生を送っていたことは間違いない。
「診断名」という「烙印」は想像以上に重い。
もちろん「診断名」を与えることの効果は否定しない。
カテゴライズされて安心する親もいるだろう。
「助成」を受ける際に必要になる場合もあるだろう。
医師の権威性を保つのにも役立っているだろう。
けれども「診断名」を与えられて途方に暮れている親子は想像以上に多い。
分類作業に過ぎない「診断 diagnosis」ではまずい。
治療への枠組みが含まれている「診断 formulation」に移行していくべきだ。
これは児童精神医学の草分けだった牧田清志氏(1915-1988)の主張である。
医学における診断全般に普遍性を持つ指摘だと思う。
次に、育てる側の親はどのように自覚すればよいか?
子供が成長(発達)する目的は何なのか?
まず、それを親が明確に知っておくべきだ。
社会の中で、他者と関係できること。
これに尽きる。
学歴も経済的成功もそのためのものだ。
そのことを親が常に頭に置いておくことだ。
「子供」を育てているのではない。
社会に登場し、機能を提供できる存在を育てているのだ。
できるだけ色々な大人を見せる。
それによって、子供がさまざまな「機能提供」の仕方があることを知る。
親が引きこもっていてはいけない。
色んな「場」で「社会的関係」を作れる親であることが何より大切だ。
商人、職人、金持ち、貧乏人、ばくち打ち、アル中、非合法な人々・・・
色んな大人を見ることができる環境で育つ機会に恵まれた。
すべての経験が「大人」にしてくれたと確信している。
以上、親の「社交性」に救われた医師の提言である。
◆執筆◆
医師・医学博士
原田文植(はらだ ふみうえ)先生
1971年、大阪生まれ。医師、医学博士、内科認定医、認定産業医、スポーツ健康医、在宅医療認定医。大阪医科大学卒業後、大阪府済生会中津病院血液リウマチ内科、国立感染症研究所を経て2008年より蔵前協立診療所所長として、地域医療に従事。年間のべ約2万人を診療している。2018年、医療と教育に特化したONE LOVEビルを建設。医療従事者向けに「日本メディカルコーチング研究所」、一般の患者向けに「よろず相談所 One Love」を開設。武道家・格闘家との交流、映画出演、音楽ライブ活動など幅広く活躍。著書に『病は口ぐせで治る!』(フォレスト出版)がある。
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