■コラムテーマ
『言葉は身体のコントローラー』
医師・医学博士 原田文植先生
1971年、大阪生まれ。医師、医学博士、内科認定医、認定産業医、スポーツ健康医、在宅医療認定医。大阪医科大学卒業後、大阪府済生会中津病院血液リウマチ内科、国立感染症研究所を経て2008年より蔵前協立診療所所長として、地域医療に従事。年間のべ約2万人を診療している。
今年も風邪で来院する患者さんはとても多い。
大抵自宅で検温している。
もちろん院内でも検温をする。
そんなとき冒頭の言葉を発する人は多い。
何となく不機嫌に、そして悔しそうに。
体温計には「36.5」とデジタル表示されている・・・
教科書的な「発熱」の定義は「37.5度~」である。
いくら平熱が低かろうが、36度台は発熱ではない。
ご本人にすれば、「しんどさ」をわかってほしいのだろう。
それはよくわかる。
しかし、本当に平熱が低いのかどうかはあやしい。
実際は「直腸温」を測らなければわからないからだ。
冬でも肌を露出する衣服を着ている人が多くなっている。
体表温度は下がりがちだ。
体表の温度と直腸温にはかなり差が出てしまう。
だから本人が思い込んでいるほど平熱が低いかどうかはわからない。
平熱が本当に低いのであれば、それ自体好ましいことではない。
病原菌に対して、しっかり免疫が機能する「適正温度」があるからだ。
つまり、ある程度発熱する必要があるのだ。
上昇した体温はインターフェロンの効果を高めて、
病原微生物の増殖を抑え、修復を助ける生体反応を促進する。
体温がなかなか上がらない人は風邪が長引きやすい。
十分に免疫システムを利用できていないからかもしれない。
普段から体温をしっかり上げるよう心がけた方がいい。
冷たいものをあまり飲み過ぎない。
汗が出るほど運動をする。
筋肉量を増やす。
たまに風邪を引いても簡単に解熱剤を使用しない。
鎮痛剤を多用しない(鎮痛剤は解熱作用があることが多い)。
などなど。
そういう意味では平熱を知っておくことも悪いことではない。
しかし、もっと知っておいた方がいいデータがある。
平常時の「白血球数」だ。
白血球数の正常値は 4,000~8,000/mm3 と幅広い。
白血球は人体にとって「軍隊」のようなものだ。
病原微生物が侵入したり、炎症が生じると、仲間を増やす。
白血球数が上昇していると、何らかの非常事態であると考えられる。
検査の結果、白血球数が 8,000/mm3 だとする。
正常上限だ。
しかし、平常時の数値が 4,000/mm3 前後の人であったら?
倍増していることになる。
普段の情報がないと、「正常」と評価されるかもしれない。
感染症などの存在を見落とされる可能性がある。
逆に普段から正常上限なら、少々高めでも異常ではないこともある。
それがわかっていれば、余計な治療をされずにすむ。
平熱を教えられるより、ずっとありがたい情報だ。
しかし、いまだに
「私、平白血球数が低いんです」
という患者さんに出会ったことがない。
毎年健診を受けてるのであれば、把握しておくことをお勧めする。
◆執筆◆
医師・医学博士
原田文植(はらだ ふみうえ)先生
1971年、大阪生まれ。医師、医学博士、内科認定医、認定産業医、スポーツ健康医、在宅医療認定医。大阪医科大学卒業後、大阪府済生会中津病院血液リウマチ内科、国立感染症研究所を経て2008年より蔵前協立診療所所長として、地域医療に従事。年間のべ約2万人を診療している。2018年、医療と教育に特化したONE LOVEビルを建設。医療従事者向けに「日本メディカルコーチング研究所」、一般の患者向けに「よろず相談所 One Love」を開設。武道家・格闘家との交流、映画出演、音楽ライブ活動など幅広く活躍。著書に『病は口ぐせで治る!』(フォレスト出版)がある。
コメント