舌の違和感|原田文植 医師コラム

舌の違和感

■コラムテーマ
『言葉は身体のコントローラー』

医師・医学博士 原田文植先生
1971年、大阪生まれ。医師、医学博士、内科認定医、認定産業医、スポーツ健康医、在宅医療認定医。大阪医科大学卒業後、大阪府済生会中津病院血液リウマチ内科、国立感染症研究所を経て2008年より蔵前協立診療所所長として、地域医療に従事。年間のべ約2万人を診療している。

高校時代、突然親友の髪型が変わった。
ロックスターっぽい髪型だった。
「似合ってないで」
とからかった。
数日後、その親友の家に招かれた。
親友はバンダナを巻いて現れた。
友人の髪型はウイッグだったのだ。
舌がんの治療中だと告白された。
からかったことを悔やんだ。
親友は闘病しながら見事、有名大学に合格した。
放射線治療が奏功したとも聞いていた。
しかし、はかなくも19歳の秋、人生の幕を閉じた。

約30年前の話だ。
親友の死は、今も自分の「道」にとてつもない影響を与えてい
最近女性芸能人が舌がんを告白した。

連日「舌がん」という言葉が登場するようになった。
「なぜもっと早く診断できなかったのか?」
そういう論調も少なくないようだ。
上昌広先生のコラムが非常に勉強になるので是非参照していただきたい。

「舌に違和感がある」「ただの口内炎だろうか?」
突然このような訴えが当院外来でも増えた。
様々な医療機関で似たような現象が起こっていると思われる。

原因となる疾患がないのに舌に痛みやしびれを感じる慢性の病気に「舌痛症」がある。
ストレスなどが増悪因子とされている。
治療の中心は抗うつ剤や心理療法など。
つまり精神に働きかける治療がメインということだ。

今回の報道で舌痛症患者も増えるのではないかと懸念している。

色々検査しても異常がなく、原因特定に難渋する頭痛や腹痛。
患者さんの身内が脳卒中や胃がんで亡くなったというケースが少なくない。
自分の症状を過大に評価してしまうのだ。

芸能人は身内ではないが、ある意味よく知っている人だ。
「身につまされる」という感覚が働く。

それは動物が生得的に持つ防衛本能なのかもしれない。
最近の研究で、感染症にかかったアリが別行動をして仲間を守るシステムがあると報告された。

人間社会ではメディアもコラボしてシステム構築の役割を果たしていると言えるかもしれない。

注意喚起が早期発見につながり、良い結果をもたらす可能性もある。
しかし情動的になり、理性的な行動ができないと危ない。
「アホ」になり過ぎる可能性もあるということだ。
アホになると、精神的な二次被害が起こる。
医療情報は視聴率が取れるらしい。
これは人間が「警告音」に反応する本能と無縁ではないはずだ。

これまで幸い、舌がんの「見落とし」は経験していない。
舌がんを克服し、90歳を過ぎて元気にしている患者さんもいる。
堀ちえみさんも治癒すると信じている。
治療法自体が発達している。
副作用対策も向上している。
新しい抗生剤も増え、感染症コントロールも向上している。
何より「治る」という意識が一般的になってきている。
つまり、頭の中がアップデートされているのだ。
治癒を確信する根拠だ。

しかし、「舌がん」を疑って専門機関に紹介し、ただの口内炎と診断されたケースも結構ある。
それも「誤診」だ。
専門機関は特に紹介症例での見落としは許されない。
だから片端から組織検査が行われることになる。
いわゆる “over indication” というやつだ。
組織検査は痛みをともなう検査だ。
“over indication” は患者さんの心身にとっても、医療経済にとっても好ましくない。

それにしても「大丈夫だ」と言いにくい世の中になってきている。
本当は医師の「大丈夫だ」はかなり効くのだが…

◆執筆◆

原田プロフィール
医師・医学博士
原田文植(はらだ ふみうえ)先生

1971年、大阪生まれ。医師、医学博士、内科認定医、認定産業医、スポーツ健康医、在宅医療認定医。大阪医科大学卒業後、大阪府済生会中津病院血液リウマチ内科、国立感染症研究所を経て2008年より蔵前協立診療所所長として、地域医療に従事。年間のべ約2万人を診療している。2018年、医療と教育に特化したONE LOVEビルを建設。医療従事者向けに「日本メディカルコーチング研究所」、一般の患者向けに「よろず相談所 One Love」を開設。武道家・格闘家との交流、映画出演、音楽ライブ活動など幅広く活躍。著書に『病は口ぐせで治る!』(フォレスト出版)がある。

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