何事も思い通りにならない育児では疲れやストレスがたまりやすく、身体的にも精神的にも大きなダメージを受けることが少なくありません。しかし、ママは育児の他にも家事を含めてやるべきことが山積みで、自身の体調変化に気づかないこともあります。「何となく体がだるい」「疲れが取れない」といった症状は何が原因で、どう解消すればよいのでしょうか。今回は、育児疲れの原因と対処法について解説します。
■コラムテーマ
お疲れママに贈る!子育て中のボディ&メンタル健康術
内科医、公衆衛生医師 成田亜希子
2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。本コラムは、だっこで腰を痛めたり、母乳育児による免疫力低下でかぜを引きやすかったり、睡眠不足や思うようにならないストレスを抱えてお疲れの子育てママに、同じく子育て中の女性医師が贈る健康管理術。
ただの疲れではない「育児疲れ」の原因は?
魔のイヤイヤ期を乗り越え、育児も一段落するかと思いきや、今度は子どもの交友関係や成績など新たな悩みの種が生まれてきます。どの時期でも育児は大変なものです。休みなく育児を続けることでママの心身にはさまざまな不調が生じてくることがあり、そのひとつとして「育児疲れ」が挙げられます。育児には体力と精神力を要するため、ある程度疲れることは避けられないでしょうが、非常に強い疲れのために日常生活に大きな支障をきたしてしまうケースもあります。また、思わぬ病気が疲れの原因になっていることも考えられます。まずは育児疲れを引き起こす主な原因について見ていきましょう。
1.日常生活の変化
育児疲れの原因として最も多いのは、育児中ならではの日常生活の変化です。すべてが子どもを中心に回り、思い通りにならないことも多い育児は、ママの心身にさまざまな影響を及ぼします。たとえば以下のような“変化”が挙げられます。
睡眠不足
生まれたばかりの赤ちゃんは1日に合計で12時間ほどの睡眠をとるとはいえ、2~3時間おきに起きて泣きながら空腹やおむつの不快感などを訴えます。そのため、夜中でも赤ちゃんの泣き声に合わせて起き、お世話をしなければなりません。赤ちゃんと一緒にすぐに寝つけるママはまだよいのですが、夜中に目が覚めるとなかなか寝つけず、そのまま朝を迎えてしまうママも少なくありません。
赤ちゃんに昼夜のリズムができ、夜間にまとまった睡眠をとるようになるのは、個人差もありますが生後3~6ヵ月ごろから。それまでのママは慢性的な寝不足に悩まされることになります。しかし、生後6ヵ月を過ぎるころには夜泣きが始まる赤ちゃんも多く、ママの睡眠不足はまだまだ続きます。子どもが朝までしっかり熟睡できるようになるのは、だいたい2~3歳ごろからです。
睡眠は体や脳を休め、明日の活動エネルギーを蓄えるための重要な時間です。慢性的な睡眠不足が続くと疲れがたまり、日中の眠気やだるさが生じるようになります。
休みたくてもゆっくり休む時間がない
育児は体力勝負です。育児における活動量はウォーキングや軽めのジョギングに匹敵すると考えられており、一日の大半を子どもと過ごすと、その日の終わりにはぐったりしてしまうというママも多いのではないでしょうか。だからといって、子どもが空気を読んでくれることはありません。どんなに疲れを感じていても、ゆっくり一息入れることさえできないときもあるでしょう。こうした疲れの積み重ねが、やがて深刻な育児疲れにつながることもあります。
2.心身の不調
育児疲れは、育児による心身の変調が原因になることも少なくありません。育児中のママは自身のケアを後回しにしてしまいがちですが、なかには病院での治療が必要になるケースもあります。次のような不調があれば、ぜひ注意してください。
自律神経の乱れ
妊娠中からの急激なホルモンバランスの変化により、産後のママにはさまざまな不調が生じます。産後のホルモンバランスの乱れは規則正しい生理が始まるまで続くことも多く、特に授乳しているママは生理の再開が遅くなるので、1年以上にわたり不調に苦しむことも少なくありません。
ホルモンバランスの変化に伴う影響は人により現れ方が大きく異なりますが、自律神経の乱れが引き起こされることもあります。自律神経が乱れると、動悸、立ちくらみ、めまい、頭痛、胃腸症状(便秘や下痢)といった症状が現れますが、強いダルさや抑うつ気分など精神的な症状が強く出るケースもあります。
また、自律神経の乱れは、産後のホルモンバランスの変化だけでなく、先に述べたような睡眠不足や疲れの蓄積が原因になることもあり、育児中であれば誰にでも起こりうるものだと考えておいてください。
全身のこり
育児中は、抱っこや授乳などで今まで使わなかった筋肉を酷使するようになります。その上、お出かけするときは大きな荷物を持ったり背負ったりしなければなりません。そのため、肩や首、腰などの慢性的なこりに悩まされるママも少なくありません。体がこってくると、ただでさえたまりがちな疲れを助長します。また、筋肉のこりにより血行が悪くなることでむくみや寒気、頭痛などの症状が現れ、長引くだるさの原因となることもあります。
産後うつ病
産後、長期にわたり抑うつ気分、不眠、頭痛などの心身の不調がみられる病気で、日本人では約1割のママが発症するとされています。産後うつ病では目立った症状がみられないケースや、育児疲れとよく似た症状(慢性的な疲労感やだるさなど)のみが生じるケースもあり、診断が遅れることも珍しくありません。しかし、適切な治療を行わずに放置すると症状が長引き、治療が難しくなることもあります。
貧血
出産時の出血の影響を引きずって、産後は貧血になりやすいとされています。また、その後も育児に追われるために栄養バランスの整った食事をすることができず、鉄分不足が続いて回復が遅れることがあります。貧血は体内の酸素不足を引き起こすため、めまいや立ちくらみ、動悸といった症状のほか、常に頭がボーッとするような原因のはっきりしない疲れがみられることも少なくありません。
育児疲れを解きほぐすためには?
育児疲れの原因は単一のものとは限らず、いくつかの要因が絡み合っていることもあります。そのため、育児疲れを解消するにはひとつひとつの要因を少しずつ解きほぐしていくことが大切です。
1.たまにはゆっくり眠って休もう
育児疲れの最大の原因は、睡眠不足と休息不足といってもよいでしょう。育児中のママが睡眠不足・休息不足を避けることは難しいと思いますが、無理をして体調を崩すと大変です。たまにはパパや実家の両親など家族の協力を得て、数時間でもゆっくり眠って休む時間を確保してください。
2.温かいお風呂に入ろう
産後1ヵ月を過ぎると、出産時の傷も徐々に癒えて湯船に入ることができるようになります。温かいお湯にゆっくり浸ると、全身の血行が改善して体のこりがほぐれ、だるさを解消することができます。また、好きな香りの入浴剤を入れてリラックスすることで、自律神経の乱れを整える効果も期待できるでしょう。普段は子どもと入浴しているママも、パパがいるときはひとりでゆっくりお風呂に入ってください。
3.栄養バランスの良い食事をとろう
育児中は自分のことを後回しにしてしまいがちなママも、栄養バランスの良い食事を心がけることは非常に大切です。特に朝食などを抜いているママは要注意。一日三食しっかりとエネルギーを補い、育児中の体に必要な鉄分などの栄養素を充分に摂取するようにしましょう。
4.自分へのご褒美としてプロのリラクゼーションを
育児によりたまった心身の疲れは、セルフケアだけではどうにもならないことがあります。家にいると赤ちゃんの様子が気になって、ゆっくり休めないというママもいるでしょう。特に体のこりがひどいときは、ちょっとしたご褒美時間をもらい、プロの手によるリラクゼーションで心身のメンテナンス&リフレッシュを図ってみてはいかがでしょうか。
5.つらい症状が続くときは病院へ……
育児疲れは、思わぬ病気が原因になっていることもあります。動悸やめまい、立ちくらみなどの身体症状や、抑うつ気分、不眠、過度な不安感やイライラ感などに悩んだときは、無理をせず病院に相談することをお勧めします。育児中は自分の時間が確保できず病院に行きづらいというママも、家族の協力を得て早めに対処することが大切です。
まとめ
育児疲れは、育児中ならではの体調や生活の変化により引き起こされます。原因は複雑に絡み合っていることも多いですが、今回紹介した対処法をひとつずつ試してみましょう。また、だるさがつらいときや気になる症状があるときは、無理をせずにできるだけ早く病院を受診することが大切です。
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内科医・公衆衛生医師
成田亜希子(なりた あきこ)先生2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会に所属。二児の母でもある。