乳腺炎予防はどうする?乳首ケアは?医師おすすめのバストケア術

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産後は楽しい育児生活が待っているかと思いきや、妊娠中とは異なる産後特有のトラブルに悩まされることも少なくありません。特に「乳腺炎」は多くの産後ママを悩ませる深刻なトラブルのひとつ。高熱や乳房の激痛などを引き起こすため、できる限り予防したいものです。今回は、乳腺炎の発症メカニズムと、乳腺炎を予防するバストケアについて解説します。

■コラムテーマ
お疲れママに贈る!子育て中のボディ&メンタル健康術

内科医、公衆衛生医師 成田亜希子
2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。本コラムは、だっこで腰を痛めたり、母乳育児による免疫力低下でかぜを引きやすかったり、睡眠不足や思うようにならないストレスを抱えてお疲れの子育てママに、同じく子育て中の女性医師が贈る健康管理術。

乳腺の詰まりが乳腺炎につながる

乳腺炎は、乳腺に炎症が生じて痛みや発熱などを引き起こす病気です。図のようにおっぱいの中にブドウの房のように多数存在し、母乳を産生している組織が乳腺」です。乳腺は妊娠中から産後の授乳に備えて発達を続け、産後はプロラクチンやオキシトシンなどのホルモンの働きにより多くの母乳が産生されるようになります。そして、乳腺内で産生された母乳は「乳管」と呼ばれる細い管から乳首を通って赤ちゃんの口に運ばれるのです。

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乳腺から乳管、そして乳首へ……。この流れがスムーズにいけば何の問題もありませんが、乳腺や乳管は非常に細い構造をしているため、大量に母乳が分泌されると赤ちゃんの口に運ばれる前に詰まり、炎症を起こすことがあります。この状態を「うっ滞性乳腺炎」と呼びます。母乳が詰まった乳腺組織は硬いしこりとして触れることができ、痛みや熱感などを伴うのが特徴です。

また、乳首(乳頭)は外界と乳腺をつないでいるため、黄色ブドウ球菌など皮膚に潜んでいる細菌が乳首から乳管や乳腺内に侵入することがあります。正常な状態であれば、細菌が侵入したとしても免疫力が勝って細菌が悪さをすることはほとんどありません。しかし、乳腺内に栄養たっぷりの母乳が詰まっていると、細菌が増殖して強い炎症を引き起こすことがあります。この状態を「急性化膿性乳腺炎」と呼び、重症な場合はおっぱいの中に膿の塊ができて手術が必要になるケースもあります。

どんなママが乳腺炎になりやすい?

母乳は産後3日目ごろから急激に分泌されるようになり、赤ちゃんの成長に合わせてどんどん分泌量が増えていきます。一般的に、乳腺炎は急激に母乳が分泌されるようになる産後6週目ごろまでに発症することが多いですが、それ以降に発症するママもいます。乳腺炎は母乳育児をするママの多くが悩まされるトラブルですが、すべてのママが発症するわけではありません。では、乳腺炎になりやすい要因として、どのようなことが考えられるのでしょうか。

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1.母乳が大量に分泌される

母乳の産生量には個人差があり、母乳量が少ないためにミルクを併用しているママもいれば、1日に1500mL以上もの母乳が出るママもいます。当然のことながら、赤ちゃんが飲む量よりも多くの母乳が産生されれば、赤ちゃんの口まで運ばれなかった母乳がたまることになり、乳腺や乳管が詰まりやすくなります。

2.赤ちゃんが母乳をうまく吸えていない

赤ちゃんが1日に必要とする母乳量にも個人差があります。また、生まれたばかりのころはうまく母乳を吸えない赤ちゃんも少なくありません。ママが産生する母乳量よりも赤ちゃんが吸う母乳量のほうが少ないと、残った母乳で乳腺や乳管が詰まりやすくなります。

3.授乳間隔が長い

産後、乳腺では大量の母乳が産生されています。乳腺内に母乳が満たされていたとしても少しずつ産生が続くので、授乳間隔が空けば空くほど乳腺や乳管内に含まれる母乳が多くなり、詰まりの原因となります

4.授乳時の方法や体勢が偏っている

常に片方のおっぱいだけを吸わせたり、同じ体勢で授乳したりしていると、母乳が吸い出されないほうのおっぱいや一部の乳腺に母乳がたまってしまいます。その結果、同じ部位にのみ乳腺炎を繰り返すことがあります。

5.乳首がダメージを負っている

頻繁に授乳を繰り返すことで、乳首がただれたり、皮がむけたり、ひどい場合には潰瘍(かいよう)ができることもあります。授乳がつらくなるほどの強い痛みを伴うケースも少なくありません。このような傷が乳首にできると、細菌が乳管や乳腺内に侵入しやすくなり、急性化膿性乳腺炎を発症することがあります。

乳腺炎を予防する授乳方法とバストケア

産後ママなら誰でも発症する可能性がある乳腺炎。これを予防するためには「母乳の詰まり」「細菌の侵入」を防ぐことが大切です。次のような授乳方法の工夫やバストケアを試してみてください。

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1.頻繁に授乳し、乳首ケアを怠らない

乳腺炎を防ぐ第一のポイントは、とにかく赤ちゃんに母乳を吸ってもらうことです。たまった母乳を赤ちゃんに吸ってもらうことで、乳腺や乳管の詰まりを予防することができます。特に哺乳量の少ない生まれたばかりのころは、1日に10回以上の授乳になっても問題ありません。ママは睡眠不足との闘いになりますが、乳腺炎を防ぐためにも頻繁に授乳するようにしてください。

なお、頻繁に授乳すると乳首に傷ができてしまうことがあります。その場合は、赤ちゃんの口に入っても問題ない軟膏を塗ったり、授乳ママ専用のニップルシールドで保護したりします。その上で、授乳後は残った母乳をきれいに拭き取り、こまめに下着を替えるなど、乳首の周りを清潔に保つよう心がけましょう。

2.左右のおっぱいで交互に授乳する

左右のおっぱいの内部にある多数の乳腺や乳管から満遍なく母乳を吸い取ってもらうためには、左右交互に授乳し、赤ちゃんが授乳する角度や方向などを適宜変えていくことがポイントです。哺乳量が少なく、すぐに眠ってしまう赤ちゃんの場合は、「片方のおっぱいで授乳する時間は3分間」などと決めておき、交互に授乳できるよう工夫しましょう。

3.授乳のタイミングが合わなければ搾乳する

赤ちゃんが眠っている、お腹が空いていないといったときは、どれだけママが授乳しようとしても赤ちゃんは母乳を吸ってくれません。赤ちゃんがお腹を空かせるタイミングを待っているうちに、おっぱいが張って痛くなってしまう……というのもよく聞く話です。また、赤ちゃんの哺乳量が少ないうちは、授乳をしても母乳が残ってしまうこともあります。

そうしたときは搾乳をしてみましょう。ベビーショップなどでは、手動や電動の便利な搾乳機が販売されています。専用のパックに搾乳すると冷凍保存もできるので、いざというときにパパに授乳してもらうこともできます。搾乳機を使わずに手で乳首やおっぱいを押して搾乳するやり方もありますが、乳首を傷付けてしまわないように注意してください。

4.乳房・乳頭マッサージで母乳を出しやすくする

初めて授乳をするママは乳管が細く、赤ちゃんも母乳を吸い出すのに一苦労です。母乳が残ってしまう原因にもなるので、授乳前に乳管を開くマッサージを行いましょう。手順は以下の通り簡単です。乳腺や乳管がほぐれてスムーズに母乳が出てくるようになるため、赤ちゃんも楽々と飲むことができます。哺乳量がアップするので、乳腺炎の予防にもつながります。

(1)まず、乳輪全体をつまむようにして前方へ引き出し、ぐるりと円を描くように回します。これを数回繰り返すと、乳頭から母乳が固まった白いカスが出てくることがあるので、ガーゼなどで拭き取ります。

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(2)次に、おっぱいを両手で下から持ち上げ、乳首と同じようにぐるりと円を描くように優しく回します。これを数回繰り返して、おっぱいや乳首が充分に柔らかくなったら授乳を開始します。

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まとめ

産後ママの大敵である乳腺炎はささいな原因で発症することが多いですが、今回ご紹介した予防法を実践すれば発症リスクを大幅に引き下げることができるでしょう。授乳は、ママと赤ちゃんのスキンシップとして、これ以上ないくらいの大切な機会でもあります。授乳方法やバストケアを工夫しながら、ハッピーな授乳生活を送っていきましょう。

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  • ◆執筆

    成田亜希子先生
    内科医・公衆衛生医師
    成田亜希子(なりた あきこ)先生

    2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会に所属。二児の母でもある。

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