痔、便秘、尿漏れ…。産後ママの3大排泄モンダイを専門家が解説!

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産後の体は様々なトラブルを招きやすいもので、育児に追われて自分のことが後回しになるうち、気づけば重症化していた……ということもあり得る話。しかし、笑顔で育児に励むためにも、健康管理はママの大切な「仕事」のひとつだといえます。今回は、産後のママを悩ませる排泄に関わる3つの問題――痔、便秘、尿漏れの原因と対処法を解説します。

■コラムテーマ
お疲れママに贈る!子育て中のボディ&メンタル健康術

内科医、公衆衛生医師 成田亜希子
2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。本コラムは、だっこで腰を痛めたり、母乳育児による免疫力低下でかぜを引きやすかったり、睡眠不足や思うようにならないストレスを抱えてお疲れの子育てママに、同じく子育て中の女性医師が贈る健康管理術。

1.痔

妊娠前は規則正しい排便習慣があったママも、妊娠中や産後は痔になりやすいもの。痔は排便時に痛みや出血を引き起こすだけでなく、悪化すると慢性的に痛み、排便をためらうようになることで頑固な便秘につながることも少なくありません。痔には大きく分けて次の2つのタイプがあり、どちらも妊娠・出産により発症しやすくなります

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1-1.痔核(いぼ痔)

肛門は筋肉により閉じたり開いたりしますが、その周辺には排便時の衝撃を吸収するクッションのような役割をする組織があります。妊娠中はホルモンバランスの乱れや水分不足、運動不足などにより便秘になりやすい状態になっています。硬くなった便を出すために強くいきむと、この「クッション」に過度の負荷がかかり、組織が伸びて「いぼ」のような膨らみを形成することがあります。これがいぼ痔の正体です。痔-産後_02痔-産後_03

また、妊娠中は大きくなった子宮が肛門周囲を圧迫するため、「クッション」内のうっ血を引き起こして痔を発症しやすくなります。産後は出産時のいきみにより痔が悪化しやすくなります。

1-2.裂肛(切れ痔)

切れ痔とは、便秘による硬い便や下痢便を排泄するときの刺激が原因で肛門の出口付近の組織にダメージが加わり、その一部が切れてしまうタイプの痔です。基本的には排便時のみに出血や痛みが生じますが、悪化したり細菌感染が生じたりすると常に痛みを伴った状態となります。

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1-3.痔の産後ケア

妊娠中の体の変化や出産時のダメージなどから、痔に悩まされているママは少なくないと思います。しかし、妊娠や出産により生じた痔は、適切な対策を続けていけば自然に治ることがほとんどです。

痔の改善のために最も重要なのは、便秘を予防することです。産後もホルモンランスの乱れや水分不足などが起こりやすいため、妊娠中と同じく便秘対策を行いましょう。また、痔の痛みがひどいときは、痔核や肛門を刺激しないように円座クッションを使うことをお勧めします。産後1ヵ月を過ぎてからは入浴時にしっかりと湯船に浸かり、肛門周囲の血行を良くすることも意識してください。

一方、これらの対策を続けても痔が改善しない場合は、薬に頼るのもひとつの方法です。痔の症状を改善する市販薬も多く販売されていますが、産後の薬の使用は授乳などにも影響することがあるので、産婦人科などから授乳中でも安心して服用できる薬を処方してもらいましょう。

2.便秘

便秘は、妊娠中から産後までママを悩ませるつらい症状の代表格です。単に便が出なくなるだけでなく、悪化すると腹痛や吐き気、腹部膨満感などを引き起こすとともに、肌荒れや頭痛など全身に様々な悪影響を及ぼします。

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2-1.最大の原因は「便意の我慢」

では、なぜ産後は便秘になりやすいのでしょうか。その最大の原因は「便意の我慢」です。特に出産したばかりのころは会陰切開の傷口などが痛むため、排便時のいきみでさらに痛くなることを恐れて便意を我慢しがちになります。会陰の傷が癒えたとしても、便意を感じたタイミングで赤ちゃんが泣き出したら我慢せざるを得ないこともあるでしょう。便は大腸内に長くとどまると水分が吸収されて硬くなるため、便意を我慢することでどんどん便秘に近付いていってしまいます。

また、産後はママの血液から多量の母乳が作られるため、水分不足になりやすい状態です。忙しい育児に追われて充分な水分をとれなかったり、食生活が乱れがちになったりすることもあるでしょう。これらの要因が便秘を悪化させることも少なくありません。

産後の頑固な便秘は「直腸瘤」が原因かも?

女性の直腸(大腸から肛門につながる部位)は膣と接しています。両者の間を隔てているのは、脂肪などの薄い組織のみです。直腸瘤(ちょくちょうりゅう)とは、図のように直腸の一部が膣を隔てる壁を押しのけて膣のほうへ飛び出した状態のことを指します。出産時には膣にも大きな負担がかかるため、膣壁の組織が弱くなって直腸瘤が起こりやすくなるのです。

直腸瘤を発症すると、便が膣のほうに飛び出した直腸内にたまり、強くいきんでもうまく排便できなくなります。その結果、頑固な便秘を引き起こすのです。便秘のほかにも膣の痛みや違和感、性交痛などにつながるため、思い当たる症状がある場合は早めに産婦人科を受診してください。

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2-2.便秘の産後ケア

産後の便秘を予防・改善するには、第一に便意を我慢しないことが大切です。会陰切開の傷が痛む場合は、医師に相談して痛み止めを処方してもらいましょう。また、「会陰切開の傷が開いてしまうのでは?」と心配になり、排便を控えようとするママもいますが、しっかり縫合されているので排便で傷が開くことはありません。

育児中にどうしても手が離せないタイミングで便意を感じた場合は、多少我慢することになっても仕方ないでしょう。ただ、そうこうしているうちに便意が収まったとしても、手が空いたらすぐにトイレへ行って便座に座るようにしてください。

もちろん、こまめな水分補給、腸内環境を整えるための乳製品や発酵食品、便を軟らかくする水溶性食物繊維を多く取り入れた食事、腸の運動を促す適度な運動などを心がけることも大切です。また、産後の疲れやストレスによる自律神経の乱れも便秘の原因になるので、疲れているときは無理をせず、家族と協力して適度な休憩を入れるようにしてください。

3.尿漏れ

お腹が大きくなる妊娠後期から産後にかけて、お腹に力を入れたり、くしゃみや咳をしたりすると尿が漏れてしまう……。こうした悩みを抱えるママは意外と多くいます。頻繁に尿漏れを起こすため、外出はおろか、赤ちゃんを抱っこすることさえためらってしまうこともあります。

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3-1.最大の原因は「骨盤底筋のゆるみ」

産後の尿漏れは、妊娠による「骨盤底筋のゆるみ」が最大の原因です。骨盤底筋は骨盤の底を支える筋肉の総称であり、子宮や膀胱、直腸などの臓器を支えるだけでなく、排便や排尿をコントロールする働きもしています。

痔-産後_08妊娠して子宮が大きくなると、この骨盤底筋にかかる負担が多くなります。その上、妊娠中は運動不足になりがちなため筋力も弱まり、骨盤底筋は引き伸ばされてゆるんだ状態となります。骨盤底筋の中でも尿道をきつく閉じる働きのある筋肉がゆるむと、お腹に力が入って膀胱が圧迫された瞬間に尿が押し出され、少量の尿漏れを引き起こすのです。

3-2.尿漏れの産後ケア

産後の尿漏れは、ゆるんだ骨盤底筋を鍛えることで徐々に改善していきます。産後の一ヵ月検診で子宮や膣の状態がある程度回復していることが確認できたら、「骨盤底筋体操」を始めましょう。やり方は様々ですが、育児で忙しいママは肛門を意識的に閉じたりゆるめたりする運動を1セット1分として1日に10セットほど行うことをお勧めします。ポイントは毎日継続することです。立ったままでも座ったままでも行えるので、育児や家事の合間にも取り入れてみましょう。

また、妊娠中に体重が大幅に増加したママは、それが原因で尿漏れを起こしている可能性もあるので、産後1年間くらいかけて徐々に減量するよう生活習慣を見直してください。

まとめ

産後ママを悩ませる排泄の問題は、育児生活にも支障を及ぼすおそれがあります。とはいえ、痔、便秘、尿漏れのいずれも充分に改善可能なので、まずは今回ご紹介した対処法を試してみてください。中には思わぬ病気が背景にあるケースもあるため、セルフケアだけでは改善しないようなら、できるだけ早く産婦人科に相談を。疲れやストレスがたまったときは、家族と協力してちょっとだけ育児から離れ、プロの手によるリラクゼーションやマッサージを受けて心身をリフレッシュさせてみてはいかがでしょうか。

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  • ◆執筆

    成田亜希子先生
    内科医・公衆衛生医師
    成田亜希子(なりた あきこ)先生

    2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会に所属。二児の母でもある。

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