【医師解説】こんなときになぜ?産後に風邪をひきやすくなる理由を知りたい

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出産を終えたら、さまざまな不調からすっかり解放されると思っているママも多いのではないでしょうか。しかし、産後は急激なホルモンバランスの変化が生じ、慣れない育児と睡眠不足で疲れやストレスがたまるなどして、妊娠中とは違った不調も現れやすくなります。特に産後まもなくは、ちょっとしたことで風邪をひいたり、なかなか治らなかったり、ということになりがちです。そこで今回は、産後に風邪をひきやすくなる原因と予防方法、注意すべき症状などについて解説します。

■コラムテーマ
お疲れママに贈る!子育て中のボディ&メンタル健康術

内科医、公衆衛生医師 成田亜希子
2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。本コラムは、だっこで腰を痛めたり、母乳育児による免疫力低下でかぜを引きやすかったり、睡眠不足や思うようにならないストレスを抱えてお疲れの子育てママに、同じく子育て中の女性医師が贈る健康管理術。


産後に風邪をひきやすくなるのはなぜ?

産後は体調や生活の急激な変化により、さまざまなトラブルが生じやすくなる時期です。しかし、育児は「待った!」なし。昼夜を問わず泣いて空腹やおむつの不快感などを訴える赤ちゃんのお世話に追われます。育児に明け暮れるなか、少しぐらいの不調なら気合で乗り切ろうとするママも少なくありません。しかし、風邪を気合だけで乗り切ることはできません。悪化したり長引いたりするとママ自身がつらい思いをするだけでなく、赤ちゃんに感染させてしまうおそれもあります。

では、なぜ産後は風邪をひきやすくなるのでしょうか。まずは産後の体の変化を踏まえながら、風邪をひくメカニズムをみていきましょう。

1.風邪症候群のメカニズム

そもそも「風邪」とはどのような病気なのでしょうか。風邪は医学的には「風邪症候群」と呼ばれる感染症の一種で、ウイルスや細菌が喉や鼻の粘膜に感染することにより、喉の痛み、咳、痰、鼻水、発熱などの症状を引き起こす病気です。赤ちゃんから高齢者まですべての年代の人がかかる可能性がありますが、特に免疫力の低下した人がかかりやすく、重症化しやすいことが特徴です。

喉や鼻の粘膜には「線毛」と呼ばれる非常に細かい毛が密生しており、侵入したウイルスや細菌などの異物をキャッチして体外へ排出する運動を繰り返しています。線毛が正常に働くためには、適度な湿度が必要です。しかし、空気の乾燥しやすい冬は喉や鼻の粘膜も乾燥するため、線毛の動きが鈍くなってウイルスや細菌が体内に入り込みやすい環境となります。冬に風邪が流行りやすいのは、この線毛の動きが鈍くなることも一因と考えられています。

2.産後は免疫力が低下する

出産が終われば、体の状態はすっかり妊娠前に戻ると思われがちです。しかし、産後は妊娠中に多量に分泌されていた女性ホルモンが急激に減少し、定期的な月経が開始されるまでホルモンバランスの乱れが続きます。その影響で、自律神経の乱れ、肌荒れ、便秘、めまいなどのトラブルが引き起こされ、人知れず産後の不調に悩んでいるママは多いのです。さらに、産後は昼夜問わず赤ちゃんのお世話をするため、生活が乱れて慢性的な睡眠不足に陥り、疲れやストレスがたまりやすくなってステロイドホルモンの分泌が促進されることが知られています。このような自律神経の乱れやステロイドホルモンの過剰分泌は免疫力を低下させるため、産後は風邪をひきやすい状態になります。

3.産後は喉や鼻が乾燥する

母乳はママの血液から生成されます。1日当たりの産生量には個人差がありますが、600~800mLほどといわれており、ママの血液は思いのほか多く消費されているのです。血液は、約45%が細胞成分(赤血球、白血球、血小板)、約55%が血漿という液体成分でできていて、血漿のうち約90%が水分です。そのため、母乳産生のため血液が不足しがちなママは脱水状態に陥りやすく、喉や鼻も乾燥しやすくなります。

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一方、母乳育児をしていないママでも、赤ちゃんのお世話に夢中になっていると充分な水分補給を忘れてしまい、脱水ぎみになることが少なくありません。また、赤ちゃんが過ごしやすい環境を整えるために窓を閉めて空調を入れることで、空気の乾燥を招いてしまうこともあります。


産後の風邪を撃退!その方法は?

産後は、さまざまな体調的・環境的要因により風邪をひきやすくなります。また、いったん風邪をひいたら、ずるずると長引いてしまうことも少なくありません。産後の風邪を予防したり重症化を食い止めたりするには、どのようなことに注意すればよいでしょうか。

1.たまには心身を休め、リラックスしよう

産後に風邪をひきやすくなる最大の要因は、育児による睡眠不足や疲れストレスの蓄積といってよいでしょう。生まれたばかりの赤ちゃんを育てていく上で、これらの要因を避けて通ることは難しいですが、少しでもママがリフレッシュする機会を作り、心身ともにリラックスした状態で育児できるように、次のような方法を試してみてください。

赤ちゃんと一緒に横になる

生まれたばかりの赤ちゃんは睡眠リズムが不規則で、2~3時間おきに眠ったり起きたりを繰り返しています。個人差はありますが、夜間にある程度まとまった睡眠をとるようになるのは生後半年ほどたってからで、そのころになると今度は夜泣きに悩まされるようになります。いずれにしても、ママの睡眠不足は避けられそうにありません。そうしたときは、日中でも赤ちゃんが眠っている間はママも一緒に横になったり眠ったりして、心身を休めるようにしましょう。「赤ちゃんが眠っている間だからこそ!」と家事を頑張るママも多いですが、風邪をひかないためにも無理は禁物です。

家族の協力体制を整える

出産はママの体に大きなダメージを与え、元の状態に戻るまでには長い時間が必要です。そのなかで休みなく育児をしていくママの体は、知らず知らずのうちに悲鳴を上げていることも少なくありません。産後の不調を防ぐためには、パパや周りの家族にも積極的な育児・家事への参加を求め、たまにはママが休める体制を作っておくことが大切です。

プロの手によるリラクゼーションを受ける

疲れやストレスがたまって体が思うように動かないときは、プロの手によるマッサージやリラクゼーションに身を委ねることも一つの方法です。一時的にでも育児を離れ、心身の疲れを癒して「再起動」させてみてはいかがでしょうか。最近では産後の骨盤矯正などを兼ねたリラクゼーションもあるので、興味があれば試してみてください。

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2.風邪をひきにくい習慣や環境を整えよう

産後に風邪をひきやすいのは、先に説明したように空気の乾燥などの環境要因も関わっています。また、忙しい育児ゆえの生活の乱れがママの体調を悪化させることもあります。具体的には、次のような点に注意してください。

規則正しい食事と水分補給

育児中のママは自身のケアが後回しになってしまいがちで、栄養バランスの悪い食事を不規則にとったり、充分な水分補給ができなかったりすることがあります。しかし、これらの悪習慣は免疫力の維持に大きな影響を及ぼすおそれがあります。産後だからこそ、栄養バランスの良い食事を規則正しくとり、こまめな水分補給を心がけるようにしましょう。

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適度な湿度を保つ

空調により乾燥しやすい室内では、加湿器や濡れタオルなどを用いて適度な湿度を保つようにしましょう。風邪をひきにくく、赤ちゃんにとっても過ごしやすい湿度は60%前後とされています。湿度計を1台は用意し、赤ちゃんがいる場所(ベビーベッドの周りなど)に設置して、適度な湿度になっているかチェックすることを心がけてください。また、外出時は風邪の予防効果も高いマスクの着用をお勧めします。マスクは喉や鼻を保湿する効果もあるため、特に外気が乾燥する冬には風邪予防の強い味方になってくれます。

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こんな症状があるときは病院へ……

次の症状がみられたら、風邪が悪化しているサインです。できるだけ早く病院を受診して、ひどくなる前に治療するようにしてください。
□38℃以上の熱が3日以上続いている
□咳や鼻水、鼻づまりが1週間以上治らない
□全身の倦怠感が強く、体が思うように動かない

まとめ

産後は免疫力が低下しやすく、風邪をひきやすい状態となっています。育児に追われるママは無理をしがちですが、たまにはしっかりと心身を休め、風邪をひきにくい習慣・環境を整えていきましょう。

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  • ◆執筆

    成田亜希子先生
    内科医・公衆衛生医師
    成田亜希子(なりた あきこ)先生

    2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会に所属。二児の母でもある。

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