■コラムテーマ
『言葉は身体のコントローラー』
医師・医学博士 原田文植先生
1971年、大阪生まれ。医師、医学博士、内科認定医、認定産業医、スポーツ健康医、在宅医療認定医。大阪医科大学卒業後、大阪府済生会中津病院血液リウマチ内科、国立感染症研究所を経て2008年より蔵前協立診療所所長として、地域医療に従事。年間のべ約2万人を診療している。
人生を変える排便の話
何気なく新聞のテレビ欄に目をやると、右肩の広告に有名な医師が写っていた。
右手にゴボウを持って満面の笑顔。
「便秘がスッキリ改善」というコピーだった。
運動不足は便秘の原因になり得る。
家でテレビばかり観ていると便秘になりそうだ。
テレビ欄に広告を打つというマーケティングは正しい戦略かもしれない。
ごぼう茶の効能はよく知らないのでノーコメントとしておく…
日本人は欧米人に比べて便秘が多いというのは事実だ。
日本人の大腸は平均にして、欧米人より2~3m長い。
ちなみに草食動物の腸は、概ね肉食動物より長い。
江戸時代までの日本人の食生活がほぼベジタリアンだったことを考えると理にかなっている。
野菜や穀物に含まれる栄養素は、消化に時間がかかるからだ。
停滞時間の長さと、便秘のなりやすさとは関係がありそうだ。
文化的背景も便秘の原因になりうる。
トイレの呼び名に垣間見る「恥じらい」の文化。
不浄、お手洗い、化粧室、雪隠、憚り(はばかり)、隠所…
なぜか、排泄にうしろめたさを感じてしまうような気がしないでもない。
諸外国のトイレの大らかさとは対照的だ。
高齢患者さんが口をそろえて言う事実がある。
一昔前、「狭い住宅事情」と「子沢山」は当たり前だった。
当然、朝からトイレは渋滞する。
「我慢」を強いられるケースも多かっただろう。
学校教育における理不尽もまかり通っていた。
休憩時間中に用を足しておくこと。授業中にトイレに立つなどもってのほか。
今では驚く人も多いが、昔は常識だった。
我慢を強いられる機会の多さが、慢性便秘を生んだ可能性は否めない。
若い頃は女性の方が圧倒的に多い便秘。
年齢を重ねると、男性も便秘患者が急増する。
加齢とともに食は細くなる。特に主食の量が減る影響は大きい。
質量保存の法則だ。入れなければ出ない。
食の欧米化も影響している。
パンは米より繊維質として劣る。肉食への変化も便秘を加速する。
欧米の人は肉を食べるときその倍量の野菜を食すと聞く。
はたして日本ではどうだろう?はっきりとした傾向は感じない。
まだまだ日本人は肉の取り扱いが上手でないかもしれない。
やはり、便秘には「米食」を推奨する。
「お米」は精米しなければさらに繊維は増える。
糠の部分に米の栄養の大半が含まれている。
いきなり玄米食に変えるのも抵抗があるだろう。
オススメは「煎り糠(いりぬか)」だ。
米屋で譲ってもらうなりして糠を手に入れる。
それを、キツネ色になるまでフライパンで煎る。
ヨーグルトにかけたり、味噌汁に入れたりして食す。
味は「きな粉」に近い。決して飲みにくくはない。
お試しあれ。
便秘治療薬についても触れておく。
生薬をベースにしたタイプに加え、新しい機序の緩下剤も多数出ている。
体質やタイプに合った便秘薬を見つけやすい環境になってきていることは間違いない。
気軽に内科医に相談すればいいと思う。
最後になるが、排便は個人差がある。
ずっと便秘をしていても健康長寿の患者さんも多い。
「スッキリ」を求めすぎない方がいい。
便秘のことばかり考えている人生は、つまらない…
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◆執筆◆
医師・医学博士
原田文植(はらだ ふみうえ)先生
1971年、大阪生まれ。医師、医学博士、内科認定医、認定産業医、スポーツ健康医、在宅医療認定医。大阪医科大学卒業後、大阪府済生会中津病院血液リウマチ内科、国立感染症研究所を経て2008年より蔵前協立診療所所長として、地域医療に従事。年間のべ約2万人を診療している。2018年、医療と教育に特化したONE LOVEビルを建設。医療従事者向けに「日本メディカルコーチング研究所」、一般の患者向けに「よろず相談所 One Love」を開設。武道家・格闘家との交流、映画出演、音楽ライブ活動など幅広く活躍。著書に『病は口ぐせで治る!』(フォレスト出版)がある。