■コラムテーマ
『言葉は身体のコントローラー』
医師・医学博士 原田文植先生
1971年、大阪生まれ。医師、医学博士、内科認定医、認定産業医、スポーツ健康医、在宅医療認定医。大阪医科大学卒業後、大阪府済生会中津病院血液リウマチ内科、国立感染症研究所を経て2008年より蔵前協立診療所所長として、地域医療に従事。年間のべ約2万人を診療している。
竹内さん(仮名)は言った。
「生きているのが辛くなった。足が冷えて冷えてしょうがない。
若い頃からずっと。もう諦めた」
ちなみに竹内さんは91歳。
ほとんどこれといった病気もせず、現在に至る…
体温を上げなさい!女の子は冷やしちゃダメ!
そう謳う著書やセラピストは多い。
西洋医学では、一般的ではない考え方だ。
「冷え」が諸悪とされる考えは、主に東洋医学だ。
日本に来る欧米人の格好を見ればよくわかる。
「冷やしてはならない」という概念はつゆほどもなさそうだ。
ニシオンデンザメの寿命は推定400歳。
最大6メートルの超大型でスピードも異常に遅いそうだ。
捕食活動も2日に一回。
遅すぎてエサを捕まえられないらしい。
ちなみに、このニシオンデンザメの体温は「ゼロ度」だ。
北極の低水温の影響で体温が下がる。
体温が下がると代謝量が下がる。
つまり”超省エネ”人生(?)を送っているわけだ。
代謝量が下がると、新しい細胞を生み出すペースも鈍化する。
要は「低体温と巨体」が世界一の長寿を生み出しているわけだ。
話を人間にもどす。
「低体温だと免疫力が低下する」は事実だ。
医学的な低体温症とは、「直腸温で35度以下」のことをいう。
一般的には、ほとんど存在しない病的な体温だ。
逆に、平熱が高い人は免疫力が高いという説もよく耳にする。
温度とは分子運動エネルギーだ。
体温が高いとエネルギーが高いというのは間違ってはいない。
だから「平熱が高い人は免疫力も高い」というのはやや短絡的だ。
エネルギッシュな人は病気知らず。
物理用語の拡張的使用による混乱と思われる。
医学的に「発熱」とはあくまでも「異常な高体温」のことをいう。
少々専門的な話をする。
発熱は感染や炎症など非常事態によく起こる。
非常事態を感知すると、視床下部の自動温度調節装置が再設定される。
つまり、居心地のよい「平熱」でなくなるわけだ。
発熱することで、病原微生物の増殖を抑え、生体の修復を促進する。
この機能がしっかり働いてくれれば、平熱が低くても問題はない。
温熱療法の効果の根拠はこの辺りにあると思われる。
平熱を無理に上げようとしても簡単ではないし、徒労に終わることが多い。
ただし「運動して筋肉量を増やす」、「冷たいモノを飲みすぎない」は正しい。
内臓保護や骨格への好影響など副産物を生むことにつながるからだ。
女の子は冷しちゃダメ!
それはもはや、伝承的「母の教え」ともいえる。
母の教えに忠実な人は他にも色々守っているものがある可能性が高い。
それが寿命を延ばすのかもしれない。
平熱の低い自分は病気になりやすい
思い込みによる「自己充足的予言」の弊害にご注意を!
◆執筆◆
医師・医学博士
原田文植(はらだ ふみうえ)先生
1971年、大阪生まれ。医師、医学博士、内科認定医、認定産業医、スポーツ健康医、在宅医療認定医。大阪医科大学卒業後、大阪府済生会中津病院血液リウマチ内科、国立感染症研究所を経て2008年より蔵前協立診療所所長として、地域医療に従事。年間のべ約2万人を診療している。2018年、医療と教育に特化したONE LOVEビルを建設。医療従事者向けに「日本メディカルコーチング研究所」、一般の患者向けに「よろず相談所 One Love」を開設。武道家・格闘家との交流、映画出演、音楽ライブ活動など幅広く活躍。著書に『病は口ぐせで治る!』(フォレスト出版)がある。