美腸を目指すことには、便秘の改善以外にどんなメリットがあるのでしょうか? 腸内環境が悪化した「下がり腸」の特徴や、腸ケアによって期待できる意外な効果について、小野咲さんに聞きました。
■コラムテーマ
『人生を変える腸活』
国立成育医療研究センターPICU(小児集中治療室)勤務を経て、小林メディカルクリニック東京の便秘外来で腸について集中的に学ぶ。著書に『下がらないカラダ』(サンマーク出版)、『腸が変われば、人生変わる 美腸の教科書』(主婦の友社)がある。
【第2回】「腸上げ」のメリットについて
“高級なうんち”を出している人が多い
編集部
そもそも腸というと、「排泄物が通過するところ」というイメージを持つ人が多いと思います。そこをキレイにすることに、どんな意味があるのでしょうか?
小野
まず一番のポイントとなるのが、腸は消化器官であるということ。つまり、栄養が吸収される場所でもあるのです。植物でいうなら、成長のために養分を吸収する根っこに当たります。
編集部
生き物にとって最も重要な部分のひとつですね。
小野
よく「体は食べたもので作られる」といいますよね。しかし、どれだけ栄養バランスに注意していても、高価なサプリメントを飲んでいても、それが吸収されなければ何の意味もありません。「高級なうんちが出ている状態」になっている人、意外に多いんですよ。
編集部
高級なうんち! 栄養が身体を通過しただけで外に出てしまうなんて、もったいないですね。
小野
また、排出しきれなかった老廃物が腸で再吸収されてしまうという問題も大きいです。たとえるなら「身体の中を生ごみが巡っている」ようなものですから。特に、食品添加物や質の悪い油、白砂糖などは、いわゆる善玉菌の敵ともいえる存在です。ファストフードやコンビニ食、インスタント食品ばかり食べている人は、どうしても老廃物が体内に残りやすく、腸内環境が悪化しがちなんです。
編集部
現代人ならではの問題ですね。単純にヨーグルトや野菜を食べればいい、という話ではないことが、だんだん分かってきました。
小野
腸内環境の改善は、自分が取り入れたいと思う栄養が本当に吸収できるような環境を整えることが第一歩なんです。
美腸のために、まずすべきは「下がり腸」をなくすこと
小野
それを説明するためには、まずは腸の構造と機能について理解してもらったほうがいいと思います。一口に腸といっても、「小腸」と「大腸」に分かれていることはご存じですよね?
編集部
おへその辺りにあるジグザグの細い小道のようなものが小腸、それを取り巻くような太い道が大腸ですよね?
小野
その通りです。胃から続く小腸は始まりから終わりまで6~7mにもなる長さで、食べ物の消化吸収を担っています。構造的には、胃や大腸と違って固定されておらず、「浮いている」ということが大きな特徴です。
編集部
お腹の中で可動性がある臓器なんですね!
小野
大腸は、お腹の中をぐるりと一周するように小腸から肛門までをつなぎ、小腸で吸収しきれなかった食べカスから水分や電解質を抜き取る働きをしています。それでも残ったものが便として形成され、排泄されるわけですね。
編集部
「下がる」というのは、どの部分ですか?
小野
まずは、小腸全体です。そもそも、食べ物が吸収される場所である小腸は、老廃物をため込みやすいんです。そして、その汚れを薄めようとして、体に水分をため込もうとします。その結果、腸がむくみ、自重で下がってくるわけです。
編集部
「浮いている」臓器だからこそ、重くなれば下がってしまう……。
小野
大腸の場合、左右の柱となる上行結腸と下行結腸は身体に固定されています。しかし、両者をつなぐ横行結腸は吊り橋のような状態になっているため、便がたまると垂れやすくなります。
編集部
つまり、腸が下がっていることは、腸内環境が悪化していることの表れともいえるわけですね。
小野
腸の下には、下肢を走る大きな血管や子宮があります。それらが下がった腸で圧迫されることで、下半身がむくんだり、生理痛や生理不順の原因になったりすることもあります。「よく脚がむくむ」という人は、腸がむくんでいるケースも少なくありません。
編集部
逆にいえば、腸内環境を整えながら腸を上げていけば、むくみや生理痛・肌荒れなど、さまざまな不調から解放されるというわけですね。
小野
はい、その可能性が高いです。
腸が変わることで心も体も元気&キレイに!
編集部
腸内環境を変えることで、便秘や下痢といった直接的な問題を改善するだけでなく、ほかにもたくさんの効果が期待できるそうですね。
小野
実は、小腸の役割は食べ物の消化吸収だけではありません。例えば、セロトニンの生成・分泌もそうです。セロトニンとは、いわゆる幸せホルモンのことで、約9割が小腸で生成されています。
編集部
ホルモンというのは、脳で作られるものではないのですか?
小野
小腸は、脳や脊髄からの指令がなくても、独自にセロトニンを生成・分泌する機能を備えています。そのため、腸は「第2の脳」とも呼ばれているんですよ。腸内環境が整うことでセロトニンが正常に分泌されれば、自律神経が安定します。結果的に、うつっぽさを感じていた人の気持ちが前向きになるといった効果が見込めるわけです。
編集部
腸が変わることで、メンタル面にも変化が表れるのですね!
小野
もう一つの重要な役割は「免疫細胞の生成」です。腸内の粘膜上皮の下に集まるリンパ組織(パイエル板)は腸独自の免疫機能を持ち、体内の免疫細胞の約7割がここで作られています。
編集部
では、腸の働きが良くなれば、いわゆる免疫力もアップするということですか?
小野
その通りです。例えば、腸のケアを始めたことで花粉症などのアレルギー症状が改善したという声がたくさん寄せられています。体温が上がったり、疲れにくくなったりする人も多いですね。
編集部
疲れやすさを改善できるというのはうれしいですね。
小野
疲れにはいろいろな原因がありますが、ポイントのひとつとなるのが肝臓です。肝臓には小腸から吸収された栄養が届きます。良質の栄養が届けば、肝臓はイキイキと働くことができます。一方、食品添加物などが多ければ、それを解毒する役割を持った肝臓は疲れてしまいます。その負担を軽減させるという視点も重要ですね。
編集部
冷え性やむくみ、生理痛、疲労感といった心身の不調の根本には、腸の問題があるのかもしれないと。下がり腸をなくして“美腸”になることで、お腹の悩みが改善できるだけでなく、精神面や免疫機能にまで良い影響があることがよく分かりました。
小野
肌のターンオーバーが促進されて美肌になったり、代謝や食欲に関するホルモンが正常化されてやせやすくなったりすることも見逃せません。決して大げさな表現ではなく、腸が変わることで、人生も変わるんです。
◆◆お話を伺った人◆◆
大学卒業後、2007年より国立成育医療研究センターPICU(小児集中治療室)勤務。その後、小林メディカルクリニック東京の便秘外来に移り、腸について集中的に学ぶ。著書に『下がらないカラダ』(サンマーク出版)、『腸が変われば、人生変わる 美腸の教科書』(主婦の友社)がある。