小野咲さんに、腸を美しくすることのメリット、腸の不調を改善する生活習慣やケア方法について教わってきた本連載。最終回となる今回は、「あと少しで便が出そうなのにトイレに行っても出ない」など、腸まわりのお悩み別に、改善へ導くストレッチなどの対処法を伺います。「和式トイレの方が、間違いなく排便しやすい」と語る小野さんおすすめの便秘改善スクワットは必見!
■コラムテーマ
『人生を変える腸活』
国立成育医療研究センターPICU(小児集中治療室)勤務を経て、小林メディカルクリニック東京の便秘外来で腸について集中的に学ぶ。著書に『下がらないカラダ』(サンマーク出版)、『腸が変われば、人生変わる 美腸の教科書』(主婦の友社)がある。
【第10回】お悩み別の腸ストレッチについて
職場でもOK!むくみやすい&猫背の人向け腸ストレッチ
編集部
これまで、「腸もみ」と「腸ストレッチ」の基本的な方法を教えていただきました。さらに応用バージョンもあるそうですね。
小野
はい。ひとりひとりの腸タイプやお悩みに応じて、プラスアルファで行ってほしいものもあります。編集部の皆さんは、どんなことが気になっていますか?
編集部
どうしてもデスクワークがメインになるので、知らないうちに猫背になっていることが多いと感じます。なんだか腸も縮こまっているような気がしますし、夕方にはほぼ毎日脚がむくんでいて……。デスクの脇などでも気軽に行えるストレッチはありますか?
小野
それでは、下腹部を伸ばすことで腸の動きを良くするストレッチを教えますね。それほど大きな動きではないので、ちょっとした休憩時間に職場で行っても不自然ではないと思いますよ。
編集部
それはうれしいです。ぜひ、やり方を教えてください!
小野
まずは、肩幅くらいに足を広げて立ちます。両方の手のひらをお尻の上部に当てたら、そこを支えにしながら上半身を反らしていきます。
ここで重要なのは、腰を反らせるというよりも、骨盤をグッと前に出すようなイメージで動くことです。できればそのまま体を左右にゆらゆら揺らしてみましょう。
編集部
見た目以上に下腹部がよく伸びて、すごく気持ち良いです。
小野
顔は上を向かず、常に前方に向けていてくださいね。このストレッチでは足の血流に影響する鼠径部(そけいぶ)が伸びるので、下半身全体を刺激することにもつながります。デスクワークが多い人はもちろん、日ごろから体がむくみやすいと感じている人にもぴったりですよ。
便秘改善の最終兵器、「おすもうスクワット」
編集部
トイレの悩みといえば、「明らかにもう少しで出そうな感じがするのに、トイレに行ったらなかなか出ない」ということがありがちです。できるだけ早く出したいとき、ストレッチで排便を促すことはできるでしょうか?
小野
「出そうで出ない」問題ですね。お腹は苦しいし、気持ちも焦りますよね。たまった便を一気に出したいとき、最終兵器となるのが「おすもうスクワット」です。
編集部
おすもう……ですか?
小野
おすもうさんが四股(しこ)を踏むときのように、大きく足を広げてしゃがんでみてください。両腕をひざの内側に入れ、こぶしを合わせるようにするとやりやすいと思います。
編集部
けっこうきついですね。このままの体勢をキープすればよいですか?
小野
それでもOKですが、もっと効果的にするために、しゃがんだまま体をねじってみましょう。まずは右側に体をねじり、左の上半身を内側に入れます。それができたら逆パターンで、左側に体をねじり、右の上半身を内側に入れます。それぞれ5回ずつ行ってみてください。できそうな人は、ちょっとかかとを浮かせて上下に動くとなお効果的です。
編集部
体がフラフラしてしまうのですが、何かコツはありますか?
小野
できるだけ視線を遠くに向けてみましょう。実はこれ、和式トイレが一般的だったかつての日本では、日常的に取られていた体勢です。洋式トイレしか使ったことのない若い世代のほうが難しく感じるスクワットですね。
編集部
ということは、そもそも和式トイレのほうが排便しやすいのですね。
小野
それは間違いないと思います。排便時には「踏ん張れる」ことが重要ですから。最近では洋式トイレに足台を設置して、和式に近い体勢を取れるようにしているところもあるそうです。
編集部
それは自宅のトイレでも応用できそうですね。
小野
ビール瓶のケースや段ボール箱などを使って、自分に合った高さの台を作るのも一案です。そこに足を乗せるようにすれば、台がない状態よりもずっと下半身に力を入れやすいはずですよ。
腸を入り口として自身の健康を振り返ろう!
小野
ちなみに、ちょっとしたことですが、左足だけでケンケンするのも意外に効果がありますよ。
編集部
左足というのは、何か理由があるのですか?
小野
大腸から肛門に続く通り道を考えると、最後の出口は体の左側にあります。腸もみで刺激を与えてもよいのですが、それが難しいときは左足ケンケンが手軽なのでおすすめです。
編集部
なるほど! やはり自分の体の構造を知っていることが、腸を改善する上でも重要ですね。
小野
いつまでも健康でいたいと願うなら、まずは自分自身に興味を持って「体について知ること」がスタート。そして、ひとつでもよいので「その知識を実践に移すこと」が大切です。
編集部
私も、腸への関心をきっかけに少しずつ健康に関する知識を身につけたり、より良い生活習慣に改めたりしていきたいと思います。
小野
便秘や下痢といった日常的な悩みが生じやすい腸だからこそ、健康について考える入り口になり得るのかもしれませんね。
編集部
最後に、小野さんご自身のこれからの目標を教えていただけますか。
小野
大腸がんや腸閉塞といった大きな病気の背景に、慢性化した重度の便秘がみられるケースは少なくありません。大腸がんは女性のがん死亡率第1位であることを考えても、予防への取り組みが欠かせないと考えています。
編集部
決して他人事ではありませんね。
小野
そうしたことを視野に入れながら、適切な腸ケアを提供できる専門家を養成すると同時に、一般の方々が自身の生活に取り入れやすいよう腸もみや腸ストレッチの方法を常にアップデートしています。これからも腸ケアの重要性を伝え続けていきたいです。
編集部
いろいろと教えていただき、ありがとうございました!
◆◆お話を伺った人◆◆
大学卒業後、2007年より国立成育医療研究センターPICU(小児集中治療室)勤務。その後、小林メディカルクリニック東京の便秘外来に移り、腸について集中的に学ぶ。著書に『下がらないカラダ』(サンマーク出版)、『腸が変われば、人生変わる 美腸の教科書』(主婦の友社)がある。