野球肩
野球のようにオーバーヘッドスローイング動作を伴うスポーツでは、肩関節に負荷がかかり、インピンジメント症候群や棘上筋腱炎などの肩関節障害が好発する
疾患の概要
疾患の概念
野球肩とは、投球動作によって発症した肩痛を主とする肩関節傷害の総称で、使いすぎ障害として徐々に発症する場合が多い。滑液包炎、棘上筋腱炎、上腕二頭筋腱炎、肩甲上神経麻痺による棘下筋萎縮、インピンジメント(impingement)症候群、上腕骨骨端線障害(リトルリーグ肩)など多くが含まれます。下肢体幹の筋力が上肢に伝わるため膨大なエネルギーが肩に加わります。最近は野球の技術指導において、球速を増すために加速期からフォロースルー期に前腕の回内動作を推奨していますが、肘関節が伸展した状態では肩関節の内旋が強調されやすくなります。筋力の弱いジュニア期や壮年期の選手には、棘上筋腱などに過負荷が加わり障害の原因となりますので注意してください。技術的に速い球を投げることと、解剖的な肩への負担とは相反しているといえます。
肩の解剖図
図 肩の解剖図
原因・発症のメカニズム
投球動作別受傷原因
野球の投球動作は、ワインドアップ期、コッキング期、加速期、リリース減速期、フォロースルー期の5相に大別され、それぞれの期において受傷原因が異なります。
投球動作
【ワインドアップ期】
ボールがグローブから離れるまでで、特別な肩への負荷は加わりません。
【コッキング期】
腕は体の後ろで肩の外転・外旋が強調されて、肩後方の三角筋、棘上筋、棘下筋、小円筋が収縮し、前方関節包や肩甲下筋は引き伸ばされて肩前面痛の原因となります。
【加速期】
手からボールが離れるまでを言い、肩の外旋→内旋の動きが強調されボールが加速します。広背筋、大胸筋、大円筋が収縮し、腕が前方に移動するときには、肘関節内側にも負荷が加わります。
【リリース減速期】
肩の内旋と前腕の回内が強調されて腕は体の前方に振り出されるため、肩後方の筋が収縮しつつ牽引されるというエクセントリックな力が生じます。よって、肩後方に痛みが発生したり、ときには肩甲上神経を圧迫(棘下筋萎縮の原因)したりします。
【フォロースルー期】
ボールが手から離れて投球動作が終わるまでを言い、腕が振り抜けて肩甲骨の外転が強調され、手指は遠心力によって血行障害を起こすことがあります。
診断
投球動作時の肩痛が主症状であるが、病変が多彩であるため、病歴や各種徒手テストを行ない特定する必要がある。
好発スポーツ
野球肩はオーバーヘッドスローイング動作を行うスポーツ全般で発症しますが、特に野球のピッチャー、キャッチャー、バレーボールのアタッカー、テニスのサーブ・スマッシュ時、アメリカンフットボールのQB、水泳(クロール、バタフライ)、ハンドボール、陸上競技のやり投などでも起こります。
類縁疾患
インピンジメント症候群
加速期に発生する肩の引っかかり症状の総称です。肩関節が90度以上外転した位置で外旋から内旋へ移行すると、上腕骨頭が肩峰、肩鎖関節、烏口突起、烏口肩峰靱帯などに衝突して、肩峰下滑液包や上腕二頭筋長頭腱の炎症、棘上筋腱の損傷を引き起こします。
リトルリーグ肩
若年成長期の選手が、投球動作の加速期に外旋から内旋の動きでストレスを繰り返し受けることによって、上腕骨近位骨端線の離開を生じる疲労骨折の一種です。成長障害の原因になりますので、ジュニア期のオーバーユースに注意しましょう。
補助診断
レントゲンによる骨変化、関節面の適合性チェック、関節造影に加え、MRIによる棘上筋腱の損傷や関節唇の変化などを調べる。
治療・リハビリ
治療
保存療法が基本であり、除痛や消炎目的で低出力超音波、低周波、低出力レーザー、アイシング、ホットパックなどの物理療法や、消炎鎮痛薬による除痛を試みます。疼痛が軽減したらストレッチングによる肩関節、肩甲胸郭関節(いわゆる肩甲骨)の可動域改善を行います。
また初期の段階では、肩甲下筋、棘上筋、棘下筋などのインナーやアウターのマッスルトレーニングをアイソメトリックの状態で行い、その後は軽め(1kg)のダンベルやセラバンドを使用します(写真)。コドマンの振り子運動(1kgのダンベル)も有用です。最後に投球過多に注意して、投球動作のフォームチェックを行いましょう。
インピンジメント症候群では、肩峰下滑液包内にヒアルロン酸ナトリウムや、ときにはステロイドの注入が有効です。その後、棘上筋や三角筋のストレッチングを行いましょう。最近では関節唇損傷や腱板損傷時には、関節鏡視下でデブリードマン(滅創や感染創などの壊死部分や異物を除去すること)や、肩峰が引っかかる場合は肩峰の骨切除による除圧術を行う場合もあります。